MEとは

日本で慢性疲労症候群(CFS : Chronic Fatigue Syndrome)と呼ばれている疾患は、イギリス・カナダ・オーストラリア・ノルウェーでは、筋痛性脳脊髄炎(ME : Myalgic Encephalomyelitis)と呼ばれています。CFSを含むMEは、世界保健機関の国際疾病分類(ICD-10 G93.3)において、神経系疾患と分類されています。

この疾患は、日常生活における軽度の労作のあとに、重度の身体的・精神的疲労を引き起こすもので、1930年代に初めて新規の疾患群として提唱する論文が医学雑誌に掲載されました。しかし、その症状などがポリオと類似していたことから、米国カルフォルニア州ロサンジェルス郡での集団発生が、非定型ポリオとして記されました。その後、1956年5月の医学誌「ランセット」の匿名の論説欄では、この疾患を良性筋痛性脳脊髄炎と名付けることを提案しています。1955年の夏にロンドンの様々な病院において、数百人の患者がMEを罹患した際の顧問医師であったRamsayは、疾患により重度の身体障害を引き起こす患者が多いことから、「良性」を削除して、筋痛性脳脊髄炎(ME)という用語を用いて、後にこの疾患の定義を発表しました。ところが、1988年にアメリカ疾病管理予防センター(CDC)の召集した国際学会で、患者の反対を押し切って慢性疲労症候群(CFS)と名付けられてしまいました。

2011年10月のジャーナル・オブ・インターナル・メディシンに、13カ国の臨床医、研究者、大学の教員、独立した患者の権利擁護団体から成る国際的合意形成のための専門委員会による、「筋痛性脳脊髄炎のための国際的合意に基づく診断基準(ME-ICC)」が発表されました。そこには「筋痛性脳脊髄炎は、複雑で広範な機能障害を伴う、後天性神経系疾患であり、その病態は、細胞のエネルギー代謝及びイオン輸送障害を伴う、神経、免疫、及び内分泌系の病的調節障害であると考えられる。徴候や症状は動的に相互作用し、病因的にも関連しあっているが、診断基準は疾病に共通する手掛かりを提供するために各病態生理の領域別に分類されている」と書かれています。

この疾患の中核症状である「労作後の神経免疫系の極度の消耗」は、主として神経免疫系領域において、要求に応じて十分なエネルギーを作り出す能力が病的に著しく低下していることにあるとされ、診断の根拠となるべき臨床症状は下記のように記されています。

 1.(日常生活での活動や簡単な知的作業のような最小限の)労作によって起こる著しく急激な身体的及び/又は認知疲労が、身体を衰弱させ、症状の再発を引き起こしうる。

2.労作後の症状の悪化:例えば、急性のインフルエンザ様症状、疼痛、及び他の症状の悪化。

3.労作後の極度の消耗は、活動直後にも起こりうるし、数時間から数日間遅延して起こることもありうる。

4.回復までの期間が長びき、通常24時間又はそれ以上要する。ぶり返しは何日も、何週間も、又はそれ以上持続しうる。

5.低閾値の身体的及び精神的疲労(スタミナの欠如)によって、病前活動レベルが相当に低下する。

神経系機能障害は、以下の四つの症状カテゴリー中の三つのカテゴリーで、少なくとも一つの症状があること。

1.神経認知機能障害:情報処理障害。短期記憶の喪失

2.疼痛:頭痛。筋肉、筋腱接合部、関節、腹部や胸部に感じうる激しい痛み

3.睡眠障害:.睡眠リズム障害。疲労回復のなされない睡眠。

4.神経感覚、知覚及び運動障害.

免疫系、胃腸器系、泌尿生殖器系の機能障害は、以下の五つの症状カテゴリーの中の三つのカテゴリーで、少なくとも一つの症状があること。

1.インフルエンザ様症状は繰り返され、又は慢性的でありえ、典型例では労作によって活性化され、又は悪化する。

2.ウィルスに罹患しやすく、回復期間が長びく

3.胃腸管:例えば、嘔気、腹痛、腹部膨満、過敏性腸症候群

4.泌尿生殖器:例えば、尿意切迫感又は頻尿、夜間頻尿

5.食物、薬物、臭気、又は化学物質に対する過敏性

エネルギー産生/輸送の機能障害は、以下の少なくとも一つの症状があること。

1.心血管系:起立不耐性、神経調節性低血圧、体位性頻脈症候群、動悸、頭のふらつき感/めまい

2.呼吸器系:例えば、空気飢餓感、努力呼吸、胸壁筋の疲労

3.恒温調節不全:例えば、低体温、著明な日内変動、発汗現象、熱感の反復、四肢冷感

4.極度の温度に対する不耐性

1956年5月の「新しいclinical entityか」と題されたランセットの論説には、「1917年にボン・エコノモによって報告された小さな集団発生の際に、13人の内2人の患者の剖検例に、brain substanceから炎症所見が認められた」と書かれています。また、筋痛性脳脊髄炎のための国際的合意に基づく診断基準(ME-ICC)」の抄録には、「本疾患の原因因子と病態の実態が未解明であったがゆえに、『慢性疲労症候群(CFS)』という疾患名が長年使用されてきた。広範囲の炎症と多系統にわたる神経病理を強く示す、つい最近の研究や臨床経験を考慮すると『筋痛性脳脊髄炎』(ME)という用語を使用する方がより適切で正確である。MEという名称は、根本に潜んでいる病態生理を表すからである。世界保健機関の国際疾病分類(ICD G93.3)において、神経系疾患と分類されていることとも一致する」と書かれています。

2011年9月にカナダで行われた国際CFS/ME学会に、当会の会員も出席しましたが、おおむねMEとすることに賛成の声が多かったそうです。この病気の国際的第一人者である、シカゴのレオナード・ジェイソン・デポール大学教授から、「将来、CFSやME/CFSという呼び方は、いずれMEに置き換えられることになる」というメールを、昨年末にいただきました。疾患の原因は未解明の部分が多いのが現状ですが、今や、国際的にMEという名称が普及しつつあります。

初めて慢性疲労症候群という病名を耳にした時、「慢性的な疲労の病気か」と、思わない方はいらっしゃるでしょうか。ME-ICCにも、「疾患名に『疲労』を用いたことが、極端に疲労を強調し、診断基準に混乱と誤用をもたらす最大原因となってきた。他のいかなる疲労を伴う疾患、例えばがん/慢性疲労や多発性硬化性/慢性疲労などのように、ME/CFS以外に疾患名に『慢性疲労』が付いているものなどない」と書かれています。慢性疲労症候群という名称によって、この疾患の深刻さが矮小化され、「怠け病」や精神疾患のように誤解されることが多く、患者達は偏見と無理解に苦しんできました。実際、患者には寝たきりに近い方も多く、経管栄養に頼らざるをえない方もおり、病歴20年という方も珍しくありません。たとえストレッチャーを使用しても、外出することによる体力の消耗に耐えられない患者もいるのです。慢性疲労症候群という病名から、誰がそんなに深刻な病状を想像するでしょうか。

世界中の患者達は、誤解を受けやすい「慢性疲労」という言葉を病名に使って欲しくないと、強く望んでいます。当NPOは、筋痛性脳脊髄炎へと病名変更することを提唱しているわけではありません。慢性疲労症候群という病名は病態を表わしていないので、一刻も早く研究を進め、病態にふさわしい病名に変更していただきたいと願っているのです。

また、この疾患に対する認知度は低く、病気を理解し、診療を行ってくれるお医者さんも非常に少なく、地域的に偏っているために、多くの患者たちは診断も受けられず、全く見放されているといっても過言ではありません。患者達は怠けていると解釈されることが多々あり、福祉サービスをほとんど受けられないのが現状です。あまりの衰弱ゆえに入院し、24時間点滴を受けざるをえなくなっても、病院中の職員から白い目で見られたときの辛い体験を、ある患者さんから伺いました。そこまで衰弱しても、まだ疑われる患者の辛さを、分かっていただけるでしょうか。

日本では、24~30万人の患者がこの病気に罹患していると推定されています。このような悲惨な状況が一刻も早く改善されるよう、一人でも多くの医師や研究者の方々に、この疾患について目を向け、病因・病態の解明や治療法開発に力を注いで頂けるよう、切に願っています。