19.12.18公明党厚生労働部会が勉強会開催

昨年12月18日に衆議院第二議員会館第5会議室において、公明党厚生労働部会・難病対策推進本部・障がい者福祉委員会合同で、ME/CFSの勉強会を開催して下さいました。当日は公明新聞の方が取材して下さり、19日付の公明新聞に「診療体制の整備が課題~党合同会議で識者 筋痛性脳脊髄炎巡り訴え」と題して、写真入りで掲載して頂きました。当日は、厚労省の難病対策課の方も出席されました。

出席された議員の方:江田康幸議員、大口善徳議員、佐藤英道議員、塩田博昭議員、下野六太議員、竹谷とし子議員、高木美智代議員、新妻秀規議員、平木大作議員、桝屋敬悟議員、山本博司議員。秘書の方が出席:浮島智子議員、矢倉克夫議員、安江伸夫議員、鰐淵洋子議員(50音順)

この勉強会は、公明党厚生労働部会長の高木議員が当法人の要望を受けて企画し、当日の司会を務めて下さいました。2019年の臨時国会で当法人の請願が衆参両議院で採択されたことを紹介し「ME/CFSが指定難病の検討の俎上にのれるくらいまで研究を進めるべきと考えており、その研究を担う山村先生の話を楽しみにしている」と挨拶されました。

最初に山村先生よりお話し頂きました。「国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部で長年、免疫性神経疾患の難しい病気を研究してきました。この病気の深刻さを理解しつつ、医学の進歩で必ず克服できるであろうという確信を持って研究を進めています。私は神経内科の専門医ですが、この病気は臨床と研究の両輪で進めていかなければいけないと感じています。

この病気は、お風呂で髪が洗えない、食事が食べられないほどのひどい疲労、睡眠障害、思考力・集中力・記憶力低下などが中核症状です。この病気では脳の血流が極端に落ちており、病名の疲労という言葉に惑わされて、脳の機能が色々落ちているということが分かっていないところに問題があります。

アメリカやヨーロッパでは、病気の認知度はかなり高まっています。筋肉痛、音やにおいに対する過敏、立っていられない症状、光に対する過敏などは、決して精神的なものではなく、この病気の本質的な問題です。国内の実態調査で、発症の契機として感染症をきっかけとする場合が多く、何らかの感染症を引き金として起きる病気だと思っています。これがこの病気の本質的な患者さんのグループであり、アメリカのNIHではこういう患者さんについてまず研究を進めています。

重症の方は家で寝たきりで、食事をするエネルギーすらありませんが、病院では全く対応していただけません。最先端の検査をすれば異常はでますが、保険診療の病院では異常なしということになります。カナダでは2003年に詳しい診断ガイドラインができており、事細かに症状や経過が書かれていますので、詳しく読んでいけばきちんと診断ができるにも関わらず、日本で診療する医師が極端に少なく、内科や脳神経内科で診てもらえない状況です。

今の医学教育ではマニュアル診療を理想とするやり方が進んでおり、日本にはガイドラインがないために診療して頂けません。診てもらえる病院が少ないという現状を、どうやって解決していくかが大事だと思います。

アメリカの専門医であるラップ先生は、「これは正真正銘の病気で、WHOで神経系疾患として定義されており、多くの著名な医師の会に認知されている」と言っています。アメリカのCDC(疾病管理予防センター)はこの病気を定義し、HPにきちんと書いていますし、専門家の先生たちを動画で教育するプログラムもあります。ところが日本では、未だに病気があるかどうかということを言っています。

臨床の研究は、アメリカもヨーロッパも日本も同じ知見で進めなければならない中で、臨床に関して日本は遅れていることは否定できません。私も脳神経内科医の一人ですから、これからは積極的に発信して学会等で周知していきたいと思っています。アメリカでは、例えばスタンフォード大学では患者さんを家族に持つ有名なノーベル賞級の学者が中心になって、研究組織を立ち上げています。最近ではハーバード大学でもそうした動きがあります。

19.12.18公明党の勉強会④HPME/CFSは脳の病気です。疲れている人を100人調べても、脳の病気の方はほとんどいませんが、ME/CFS患者は全員脳の血流の低下、あるいは脳内の炎症が起こっています。ですからME/CFSは長時間労働を続けて慢性疲労になった方たちとは違うことを、はっきりさせなければなりません。脳に異常があることの根拠は、集中力・記憶力・認知機能の低下等です。

この病気では、睡眠をとっても疲労は回復しません。軽い肉体労働をした後、ドーンと悪くなって一週間寝たきりになることがあります。日本ではこの情報が広まっていませんから、「怠けているだけだから頑張ってリハビリしなさい」という治療をして、さらに悪くなるという例があります。

(脳血流の結果の図)青で示された所が血流が落ちている所で、赤で示された所は血流が増えている所です。この病気の患者さんの多くで、このような所見を認めます。ME/CFSは保険診療の検査では異常がでにくい病気ですが、脳血流検査をすると異常が確認できるので、脳の病気であることは確実であり、脳神経内科医がもっと関与すべきだと言えます。

日本神経学会元代表理事の高橋良輔教授は、ME/CFSに十分な理解を示され、BRAIN and NERVEという雑誌に、ME/CFSの特集号を企画するように推薦して下さいました。この雑誌は脳神経内科医の多くが目を通す雑誌で、ME/CFSの専門家であるハーバード大学のコマロフ教授も論文を寄稿して下さいました。

NCNPでは放射線診療部の佐藤典子先生のグループと私たちのグループが共同で研究を進めています。患者さんの脳MRI画像を拡散テンソル法という解析方法で処理したところ、ワーキングメモリとの関連が示唆されている右上縦束という部分に異常所見が見つかり、MRIの専門雑誌で報告しました。この結果も、ME/CFSが脳神経疾患であることの一つの証拠になると考えています。

脳血流検査やMRI拡散テンソル解析の結果から、ME/CFSでは神経系に異常があることが確実です。また、さらに免疫系にも異常があることが明らかになっています。特定の遺伝素因をもった方に感染性因子(ウイルス?)が作用することによって、発症の引き金が引かれるのではないかと考えています。その根拠として、患者さんの多くで、発症初期などに頸のリンパ節の腫れが見られることや、微熱を伴うことがあげられます。しかし、臨床症状だけではなく、さまざまな免疫系の異常が、特殊な検査で確認されています。また、私たちは血液リンパ球(T細胞やB細胞)に異常がみられることを確認しています。

例えばスタンフォード大学の研究者たちは、ME/CFSの重症度と血液中の炎症性サイトカインの濃度に相関が見られることを報告しています。またノルウェーの医師たちは、B細胞を殺す悪性リンパ腫の治療薬(抗CD20抗体)が、ME/CFSに有効であるという論文を発表しています。抗CD20抗体は自己免疫病として知られる多発性硬化症や血管炎に有効な薬です。PLOS ONEという雑誌に発表された二報の論文では、抗CD20抗体のME/CFSに対する薬効が示されました。しかし第3相試験では、良い結果が得られなかったようです。色々な理由(患者さんの選択方法の問題など)が考えられ、私たちは抗CD20抗体がME/CFSに無効であることを結論づけるべきではないと考えています。

NCNP病院ではME/CFSの外来診療を継続しており、ご協力いただける患者さんの血液サンプルを詳しく解析して、色々な情報を収集しています。ご家族に関節リウマチなどの免疫病の患者さんがおられる例が目につきますが、患者さんご本人も免疫病を合併していることが比較的多く、ME/CFSも免疫病である可能性を推測させます。

フローサイトメーターと言う機械でリンパ球一つ一つの性質を調べると、ME/CFSの患者さんではB細胞の数が多い傾向にあります。B細胞は、さらに細かく分けることができますが、いくつかの細かく分けたB細胞集団(亜集団)で異常が確認されました。また免疫系の暴走を止めるブレーキ役である、制御性T細胞(T-reg)が、ME/CFS患者さんの血液では減っていることも確認できました。このような変化は、多発性硬化症などの自己免疫疾患でも見られる変化であり、ME/CFSに対して有効な免疫治療が開発できる可能性を示唆しています。

私たちは、B細胞の受容体遺伝子を次世代シークエンサーで解析する新しい手法をME/CFSの研究に応用していますが、最近、大変興味ある所見が得られ、論文発表の準備をしているところです。まだ詳細はお話しできませんが、ME/CFSの診断や臨床試験の遂行において、役に立つ可能性があるものです。特に、患者さん個々の病態に合わせたテイラーメイド医療への期待に応える成果で、新薬開発で活用されることを祈っています。

続いて篠原理事長は、2011年から公明党の先生方に勉強会を開催して頂いてきたことに感謝の言葉を述べ、一日も早くME/CFSが指定難病になり、根治薬の治験が開始されるよう、そのために研究費を付けて頂けるようご支援をお願い致しました。

その後、国会議員の方々より、研究を促進するためには何が必要であるのか、そのための予算をどうすれば良いのか等、活発な質疑応答が行われました。