22.8.8岩崎先生の動画:Long COVID とME/CFS

8月8日付のWEBマガジン“Knowable Magazine”に、米国エール大学の岩崎明子・免疫学教授の「Long COVID:同時進行中のパンデミック」と題する動画が配信されましたので、翻訳してご紹介します。

私はLong COVIDに苦しんでいる人々から毎日、メールやメッセージを受け取ります。彼らの生活はLong COVID によって破壊され、仕事に行くことができないか、或いは以前のようなペースで仕事ができません。こうした話が私自身の中に蓄積され、もっと研究し、人々の苦しみを和らげるためにできることを探そうと駆り立てます。その苦しみはあまりにも大きく、悲惨な状態を終わらせるために自らの命をたつことを真剣に考えている人もいますから、この病気を緊急性をもって理解する必要があります。こうした絶望的な行為を一人でも思いとどまらせることができたら、私たちは務めを果たしていると思います。一日一日が大切で、一刻を争うことを理解していますので、私はあまり寝ている暇がありません。

たとえ今日、ウイルスの蔓延が止まったとしても、何千万人という人がすでにLong COVID に苦しんでおり、Long COVID のパンデミックが同時進行しているのに、急性期や重症のCOVID-19に比べ、ほとんど注目されていません。こうした人々の生活の質が非常に制限されているにも関わらず。

COVID-19に感染後に完全に回復した人々と比較すると、Long COVID 患者の計測値にははっきりした生物学的違いが見られます。この疾患が精神的な原因によるものだという見解を乗り越え、患者達が苦しんでいる生物学的原因、生物学的な根拠を本気で調査しなければなりません。

ME/CFSは違うウイルスによる感染が原因ですが、Long COVID 患者が苦しんでいる病気とME/CFSは、恐らく同じ病気だと私は信じています。Long COVID以前にも、非常に多くのウイルス感染、時にはバクテリアや寄生虫の感染によって、長期にわたる影響が残ることがありました。Long COVID 患者の数の多さゆえに、数多くの病原体が引き金になり発症するME/CFSのような他の様々な疾患に、今になって初めて関心が集まりつつあります。その症状はLong COVID にみられるものと非常に類似しています。私たちは今後、この問題に対処していかなければならないのですから、他の急性ウイルス感染後症候群の研究を開始するよう、社会に警鐘を鳴らしています。Long COVID の段階で回復できなければ、こうしたLong COVID 患者の中にはME/CFSに移行する人がいる可能性があります。

Long COVIDの発症機序には、4つの原因が考えられます。最初の仮説は、鼻咽頭スワブや唾液では検出できないが、体の組織のどこかにウイルスが隠れている可能性です。第二の仮説は自己免疫です。急性の感染症の結果として、自己免疫は起こりえます。私たち自身の体、宿主たんぱく質や分子に対して作用を示すT細胞やB細胞、こうした自己免疫細胞は、一度、引き起こされると、誘因となる刺激要因はそこら中にありますので、停止させるのは非常に困難です。本質的にそれは自分自身の細胞なのですから。

三番目の可能性は、微生物叢の腸内毒素症です。私たちの腸内には何兆個ものバクテリアがおり、健康にも寄与しますが、その構成物や代謝機能が乱れれば、病気を引き起こす可能性があります。EBウイルスのように、再活性化して様々な症状の原因となる休眠中のウイルスもあります。微生物叢にしろウイルスにしろ、私たちの体の中で調節異常になったものです。4番目の可能性は、初期感染によって被った組織の損傷で、修復されえないもので、入院した患者に起こりえます。

治療に関してですが、Long COVIDによって自己免疫が引き起こされているのであれば、まず自己免疫疾患の標的、こうした症例でT細胞やB細胞が何を攻撃しているのかを同定する必要があります。それによって、宿主免疫反応がどのように宿主に害を与えているのかを知ることができますので。もし患者が何らかの自己免疫疾患にかかっていることがわかれば、免疫抑制薬や自己抗体の起源であるB細胞を除去する生物製剤のような、既存の自己免疫疾患の治療による介入を行えます。Long COVID に適用できる新しい生物学的製剤も開発されています。

Long COVIDがどんなに破壊的だか分かっているのですから、これが国民の議論の中心ではないことに、個人的に驚いています。外出して、自分自身をいかなる型の新型コロナウイルスに暴露することも非常に躊躇します。新型コロナウイルスにかかる危険性を軽減し、Long COVID にもかからないよう、防御対策を何重にも重ねる必要があります。

英語の動画はこちらからご覧いただけます