21.8.20国際ME/CFS学会でのナス先生の講演

8月19日~21日(米国時間)に、国際ME/CFS学会(IACFS/ME)主催の学術大会がオンラインで開催されました。国際ME/CFS学会副会長のリリー・チュー先生より、日本でも学術大会の報告をして下さいという依頼があり、当会の小冊子「患者さんへの手引き」の著者であるニュージーランドのME/CFS専門医であるロサムンド・ヴァリングス先生と、セーラ・ダルジール先生が書かれた学術大会の報告を、翻訳することになりました。少しずつご紹介致します。

はじめに
このオンライン学術大会は、国際ME/CFS学会学会長のフレッド・フリードバーグ先生(米国Stoneybrook)の歓迎のあいさつで始まりました。大会の前には、素晴らしい臨床的ワークショップの数々と患者のための会議(1日間)が行われました。

8月20日の基調講演 
米国国立衛生研究所・国立神経疾患・脳卒中研究所のアビンドラ・ナス先生
「ME/CFSとLong COVID:重複しているか、それとも異なる病態か」

COVID-19感染は、神経症状を引き起こすことで知られています。嗅覚障害、脳症、脳卒中、髄膜炎/脳炎、発作、白質脳症、脳幹異常による突然死を含む、急性新型コロナウイルス感染症の感染に関連する複数の症状が報告されています。COVID-19で入院した患者の3分の1は、精神状態の変容を経験し、平均で3倍入院期間が延びています。こうした患者の3分の2は、退院時に日常生活動作に支障があります。急性COVID脳症の患者の死亡率も増加しています。

英国のデータによると、他のウイルス性疾患に比べ、急性COVID-19後には脳出血、虚血性脳梗塞、認知症、精神疾患を含む神経症状が多いことが示されています。Long COVIDは(後遺症の)一つの表れ方の一つにすぎません。Long COVIDの患者は4つのグループに分けられます(重複する症状もあります)。

  1. 運動不耐と疲労
  2. ブレインフォグー特に言語検索困難
  3. 頻脈/体位性頻脈症候群など、低血圧、体温調節障害、胃腸系の症状、末梢血管収縮(多くの場合、手足のチクチクした痛みとして現れる)を含む自律神経機能障害
  4. 関節・筋肉・胸の痛み

ME/CFSとLongCOVIDには表現型として重複があります。

持続感染、及び又は持続的な免疫活性化の、2つの病理生理学的メカニズムが提案されています。両方のメカニズムを裏付ける研究のエビデンスがあります。

脳脊髄液はT細胞の枯渇と、感染への免疫反応と一致した脱分化した単球を示しており、自然免疫系の免疫調節障害を示唆しています。COVID-19の症例による剖検の研究の結果、脳のあらゆる部分に炎症性浸潤を示し、特に脳幹において顕著でした。嗅球で血管漏出や白血球浸潤も見られますが、ウイルスやスパイク蛋白は検出されませんでした。血管壁内の血小板の活性化の増加が特に内皮細胞の回りで見られ、損傷個所を示唆している可能性があります。死後のMRI画像は、脳幹の大血管と微小血管損傷、ニューロン損傷を示しています。

治療の可能性は、抗ウイルス薬(ウイルスの持続感染が認められる場合)、免疫調節薬、T細胞の枯渇を逆転させうる治療法等があります。

質疑応答:COVID-19から回復後、2,3週間後に新しい症状が出る人がいます。
これは持続感染によって、免疫系が、あるいは免疫応答が徐々に増加することにより、自己免疫反応を引き起こしている可能性があります。