21.4.28医療NEWSに免疫バイオマーカーの論文

4月28日の医療NEWSに「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の新規免疫バイオマーカーを発見-NCNP~ME/CFSを神経免疫疾患として捉え、患者のB細胞を解析」と題して、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部の山村隆部長や佐藤和貴郎室長らの研究グループが、ME/CFSの血液診断マーカーとなりうる免疫異常を発見したことが取り上げられました。

NCNPは4月27日、ME/CFSの新たな免疫異常を発見し、それが診断に有用な血液診断マーカーとなり得ることを発見したと発表しました。この研究は、同センター神経研究所免疫研究部の佐藤和貴郎室長、山村隆部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Behavior and Immunity」オンライン版に掲載されています。

ME/CFSは「風邪症状」を契機に突然発症することが多いことから、ウイルスや細菌が免疫系に作用することが発症に重要と考えられており、2003年にはカナダや香港でSARS感染後のME/CFS集団発生が報告されています。海外の報告によると、リンパ球の一種であるB細胞を除去する抗体療法や、免疫吸着療法が少なくとも一部の患者には有効だとされています。

また、ME/CFSの中核となる症状は脳機能の異常と考えることができます。実際に、PETを用いた脳画像研究で「脳内炎症」が示されており、MRI画像の詳細な解析では炎症でダメージを受けた部位が推定されています。このような背景から、研究グループはME/CFSを神経免疫疾患として捉え、その病態の解明を目指して研究を進めていました。

B細胞は自己免疫疾患では悪化に働く細胞で、重要な治療標的となっています。B細胞は表面に、B細胞受容体(BCR)を出しており、多種多様な抗原に対するBCRが作られます。BCR遺伝子を網羅的に解析することにより、個人のB細胞がもつ、さまざまな種類のBCRファミリーのそれぞれの頻度を明らかにすることが可能です。過去の報告から、感染症やワクチン、自己免疫疾患では特定の種類のBCRファミリーが増えていることがわかっています。

今回、研究グループが次世代BCRレパトア解析を用いてME/CFS患者のBCRレパトアを調べた結果、健常者集団と患者集団ではBCRレパトアが有意に異なることが確認されました。患者集団では特定のBCR遺伝子を発現しているBCRファミリーの増加傾向が認められ、これらはある種の抗原に反応して選択的に増加したB細胞集団の増加を反映したものであると考えられました。そこで、得られたデータをもとにROC解析を行ったところ、良い精度で患者と健常者を区別できることが判明。さらに、最初の解析後に研究に参加したME/CFS患者集団で追試をしたところ、ほぼ同様の結果が再現されました。

感染症様エピソードとBCRの関係について調べたところ、IGHV3-30(および近縁の3-30-3)を持つBCRファミリーを持つ患者は、感染症様エピソードの後にME/CFSを発症し、また、発症後の期間が比較的短い患者で、特に多いことが判明。さらに、BCRが抗原と結合する部位として重要なCDR3(相補性決定領域3)について調べたところ、特定の長さのCDR3をもつIGHV3-30(3-30-3)が特に増えていることが確認され、抗原によって選択されたことが強く示唆されたといいます。

一方、フローサイトメーターを用いてレパトア解析と同じ集団の血液中のB細胞の頻度を調べた結果、患者群では健常者群と比較し、B細胞の頻度が有意に高いことがわかりました。B細胞の一種であるプラズマブラストが、ME/CFS患者の約20%で増加していました。

さらに、患者由来のプラズマブラストの特徴について網羅的遺伝子発現解析を実施。その結果、患者のプラズマブラストではインターフェロン誘導遺伝子と呼ばれる遺伝子の機能が亢進していることがわかりました。患者のプラズマブラストではインターフェロンに反応して起こる細胞活動が慢性的に活性化している可能性が考えられました。加えて、プラズマブラストにおけるインターフェロン誘導遺伝子のはたらきが特に増えている患者では、IGHV3-30(および3-30-3)の頻度が多いことがわかり、両者は関連していたといいます。

過去の報告によると、IGHV3-30(および3-30-3)はインフルエンザウイルスやマラリア、COVID-19感染症によって誘導されやすいB細胞受容体とされています。多様な病原体がこのB細胞受容体をもつB細胞に反応すると考えられることから、抗原は必ずしも病原体由来とは限らず、自己由来あるいは腸内細菌など共生微生物由来である可能性も考えられ、今後の検討が必要だとしています。

ME/CFSでは、さまざまな抗自律神経受容体抗体が検出されることが報告されており、自律神経異常の原因となっている可能性が指摘されていることから、特定のBCRをもつB細胞が選択的に増え、ME/CFSにおける自己抗体産生を担う細胞となっている可能性が考えられます。研究グループはこれまでに頭部MRI画像解析と抗自律神経受容体抗体の関連を示す研究成果を発表していますが、同成果とあわせて考察すると、感染症など発症のトリガーとなる刺激が、特定のBCRをもつB細胞を選択的に増やし、抗自律神経受容体抗体産生などを介し、脳機能異常を惹起しているという病態仮説が考えられるといいます。

一方、BCRレパトアの偏りについて研究グループは、「異なる時期に参加した別のグループの患者を用いた検討でも同様の偏りを認め、その結果が再現された。また、患者群で増えていたBCRの頻度情報を用いて、患者と健常者を良い精度で区別することができた。これらのことから、BCRの頻度情報はME/CFSの診断に役立つ可能性がある」としています。今後、同手法を実臨床で活用するためには、似たような症状を呈する疾患との比較や、簡便な検査法の開発が必要となります。今回の発見を契機に、ME/CFS患者の治療法開発が進むことが期待されます。