21.2.26論座:コロナ後遺症で注目されるME

2月26日付の「論座」(朝日新聞社の言論サイト)に、「コロナ後遺症で注目される『筋痛性脳脊髄炎』とは」と題する記事が掲載されました。サブタイトルは、「日本ではかつて『慢性疲労症候群』と呼ばれ、多くの誤解を受けてきた」。執筆は星槎大学副学長の細田満和子教授。

新型コロナの後遺症として極度の倦怠感、体の痛み、思考力低下の訴えなどが報告され、筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と関連付けられることがあります。ME/CFSはこれまで多くの誤解を受けてきた病気で、患者は病気そのものだけでなく誤解にも苦しんできました。

ME/CFSはこれまで世界的に集団発生を起こしています。1955年に英国ロンドンで集団発生し、イギリスの研究者たちは1956年に医学誌「ランセット」に、MEと命名することを提案しました。1984年には米国ネバダ州で集団発生し、この病気が単なる「疲労」と考えられることを嫌悪し、患者団体が反対したにもかかわらず、米国では1988年にCFSと名付けました。ME/CFSは世界保健機関(WHO)の国際疾病分類において、神経系疾患と分類されています。

日本では、ただの疲労と慢性疲労症候群の違いさえ知らない医師も多いです。世界的にME/CFSの診断には、カナダ保健省による診断基準が用いられています。国際ME/CFS学会も、2012年にこのカナダの診断基準を使用して臨床医の手引きを発表しています。ただし、この診断基準がすべての医療者に知られている訳でなく、診断できる医師は限られているのが実情です。2014年の厚労省の実態調査では、約3割が寝たきりに近いことが明らかになりました。

筆者は、2012年に「NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会」の協力を得て、日本での、ME/CFSと診断された人と症状のある人を対象とした患者実態調査を実施しました。その内の37%が、ME/CFSの診断を得るまでに6カ所以上の医療機関を受診しており、診断が確定するまでの期間は、ほとんどが6年以上で、中には20年という方もいました。

ただし診断されたとしても、患者にとって利益になるとは限らないことも分かりました。診断をした医師が疲労を専門とする医師や精神科医である場合、誤った治療法によって病気を悪化させることもあります。また、診断されたとしても、そのことでかえって医療者や家族からさえ病人と理解されなくなり、病気を装っていると詐病扱いされることさえあるのです。「病気」と認められづらいME/CFS患者は、身体においても、生活においても、人間関係においても困難を抱え、そしてこの困難によって、患者は他者とのつながりを次第に保てなくなってしまいます。

「NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会」は、新型コロナの後遺症としてME/CSFが取りざたされている海外の動向をいちはやくつかみ、2020年5月から新型コロナ後の体調不良が続く人を対象に、筋痛性脳脊髄炎の症状が出ているかを聞くアンケートを始めました。筋痛性脳脊髄炎様の症状を呈した人は全体の27.9%で、その中で実際に病院を受診したの5人(PCR検査陽性1人、未検査4人)はME/CFSの確定診断を受け、日本においてもコロナ後に筋痛性脳脊髄炎に移行する可能性が明らかになりました。なおこの調査は、公益財団法人東京都医学総合研究所に引用されたり、日経メディカルで取り上げられたりするなど、信頼性が高いと考えられています。

新型コロナの後遺症を取り上げる報道により、ME/CFSへの注目が高まっているのは間違いありませんが、筋痛性脳脊髄炎患者は危惧を覚えている側面もあります。同法人理事長は筆者との私信の中で、「ME/CFSに関して間違った情報が広がることを非常に懸念しています。コロナ後に疲労が続き、他にいくつかの症状があれば、筋痛性脳脊髄炎ではありません。国際ME/CFS学会発行の臨床医の手引書でも診断に使われ、世界的に最も信頼されているカナダの診断基準をすべて満たさなければ、筋痛性脳脊髄炎ではありません。まず医師が神経免疫系の疾患であるこの病気を正しく理解することが非常に大事だと思います」と書いています。

患者を支援するには、医療者が患者の経験している症状をよく理解し、必要な治療や社会的支援を提供できることが必要です。同法人理事長も「重症患者が社会保障を受けられるようになることを、強く願っています」と訴えています。

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