20.9.1神経学会で山村先生がMEの講演

8月31日~9月2日に第61回日本神経学会学術大会が、COVID-19の感染拡大に伴い、WEB上と岡山コンベンションセンターで開催されました。9月1日に開催された「自己免疫性脳性の最前線」シンポジウムにおいて、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部の山村隆特任部長が、「免疫性疾患としての筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と題して講演されましたので、概要をご紹介します。

1969年にWHOではME/CFSを神経系疾患と分類しています。ME/CFSは過去に何度も集団発生しており、最近のCOVID-19感染に関連してME/CFSが発症しているのではという衝撃的なレポートも相次います。COVID-19に関連したME/CFSに関して、最近のNeurologyに論文が出ています。著者で脳神経内科医のナス先生はNIHでこの病気の研究をされている方です。自己免疫病の関与を示唆しており、神経内科医に是非、ME/CFSの研究をしてほしいというメッセージも入っています。また、NIHのファウチ先生が、色々なメディアを通じて、新型コロナウイルスとME/CFSの関係を示唆しています。近年はNIH(米国国立衛生研究所)、スタンフォード大学、ハーバード大学などの一流の研究室で研究が進んでいます。

診断基準は色々ありますが、該当例を見落とさないことと、精神科の疾患が除外できることがポイントになります。2003年にカナダの診療ガイドラインとして出されたものが、信頼性が高いように感じています。私達はAMEDの研究班で、このカナダの診断基準を使用した「臨床医の手引書」の日本語の翻訳文を公開していますので、興味のある方は是非、ご参照下さい。

私達はME/CFSは免疫性神経系疾患であることは間違いないと思っています。中枢神経系に異常があるという客観的なデータとして、2014年に理研のグループがPETを使ってグリア細胞の活性化を証明しました。あるいは一般診療において脳血流SPECTで調べますと、この病気の多くの方は脳血流の低下がみられます。

NCNPの放射線診療部と私達が共同で研究し、MRI拡散強調画像の解析でDKIを用いて、右上縦束の構造異常が検出されました。この異常は、認知・言語・ワーキングメモリーの異常とつながっている可能性が非常に強く、ME/CFSの状態を反映していると考えています。

ME/CFSが免疫系疾患であるというデータとして、例えばナチュラルキラー細胞の活性が落ちています。スタンフォード大学のグループがPNASに掲載した論文では、患者さんの血中のサイトカインを網羅的に解析した結果、重症な方と軽症な方では炎症性サイトカインの発現パターンが違うことを、メッセージとして出しています。

ME/CFSで自律神経系の受容体に対する抗体が検出されるという重要な論文が、ドイツから発表されました。交感神経系の機能に関連するβ1あるいはβ2アドレナリン受容体に対する抗体が、患者さんで平均して上がっているという論文です。

私達は色々な免疫学的な研究を進めており、制御性T細胞が健常人に比べME/CFSの患者さんで、有意に低下しているというデータが出ています。この制御性T細胞は自己免疫病で減少することが知られており、例えば多発性硬化症でも減少していますが、MSにおけるのと同じようなレベルで細胞が減っており、これはME/CFSが免疫性疾患、あるいは自己免疫性疾患であるということを、側面から支援するデータだと思っています。

さらに私達は、患者さんの抗自律神経系抗体価を測定し、同じ患者さんでMRIの撮影をして神経のネットワークを解析したところ、β1アドレナリン受容体抗体価と右背外側前頭前野の媒介中心性との間に正の相関があることが確認され、論文をJournal of Neuroimagingに発表しています。右背外側前頭前野は注意力やワーキングメモリーに関与する他、痛みの調整をすることでも知られており、ここに異常が出たということは、ME/CFSの色々な症状の一部を説明するものではないかと思われます。

また、β2アドレナリン受容体抗体価に関しては、右中心前回の特徴的経路長との間に負の相関が確認されました。このM1という領域は慢性疼痛の痛みに関与すると言われていますので、これも大変意味のある結果ではないかと思います。

治療で注目されるのは、ノルウェーの抗CD20抗体の治療です。B細胞悪性リンパ腫の患者さんでME/CFSを合併した方に、悪性リンパ腫を殺す治療法として抗CD20抗体を使ったところ、腫瘍も消え、疲労の症状が急になくなりました。医師主導で第三相試験まで実施され、第二相試験の結果は非常にきれいな結果でしたが、第三相試験の結果は思ったような結果が得られませんでした。その理由は、ME/CFSという病気がかなりheterogeneousなもので、診断があまり確定しない症例が入った可能性等が考えられると思っています。

他の治療として、最近immunoadsorption免疫吸着療法がME/CFSに確かに有効だという論文が、ベルリンから出ています。β1、β2アドレナリン受容体抗体が上がっているということを勘案しまして、この病気は自己抗体を除去するような治療法が効く可能性があるということを推測させるものだと思います。

医療のレベルを格段に高めるためには、ME/CFSの明確なバイオマーカーに基づく診断が必要です。自己抗体の測定等もあるかもしれませんが、私達はB細胞の抗原受容体の詳細な解析によって、この病気の特徴をあぶりだし、さらにそれを使った診断技術を開発しようという研究を3、4年かけて進めています。

B細胞抗原受容体には多様性があり、様々なV・D・J遺伝子がそれぞれのクローンにおいて使われています。現在、次世代シークエンサーを用いて、B細胞受容体のシークエンスを網羅的に解析する研究を進めています。この技術を使った成功例はすでにImmune Thrombocytopeniaのような他の疾病で報告されており、そのような結果がME/CFSでも出れば、Immune Thrombocytopeniaは明らかな自己免疫疾患ですから、ME/CFSの自己免疫病仮説が補強されます。

B細胞レパトアを規定する免疫グロブリンGのH鎖(IGH鎖)の使用頻度を解析した結果、患者さんと健常者間で有意差を認めたIGH鎖のファミリーには6種類あります。上からIGHV1-3、IGHV3-30というように6種類あり、それぞれ患者さんで優位に発現頻度が上がっているというデータが出ています。この6種類を組み合わせてROC解析しますと、非常に高い確率でME/CFSを診断できることが分かってきました。この解析はさらに新しいコーホートを使って再現性の確認をしていますが、ほぼ同じような結果が出ています。

結語になりますが、ME/CFSはウイルス感染の後に発症する例が何度もあり、ウイルス感染後疲労症候群という位置づけができるのかもしれません。その場合、ウイルス自体が脳に入るというよりは、免疫系に自己免疫応答の亢進を惹起させて、それが発病につながっているのではないかと私達は考えています。

この病気は中枢神経系の炎症が本態と考える証拠が次々と出てきています。特に自律神経受容体抗体が出ていることは、色々な専門家の関心を引くと思いますし、抗体除去療法も真剣に議論すべきだと思います。この病気の理解をさらに深めるためには、B細胞レパトア解析のような先端的な研究が必要です。そういうものを使って新薬の臨床治験などが比較的容易に実施できるようになるのかはないかと思っています。