20.9.14NatureにCOVID-19とME

9月14日付のNatureに、「新型コロナウイルス感染症が長引いている人々の持続する苦悩」と題する特集記事が掲載されました。サブタイトルは「新型コロナウイルス感染後数ヶ月たっても、激しい疲労、肺の損傷、他の『長引くCOVID』の様々な症状と闘っている人達もいる」

サザンカリフォルニア大学の臨床放射線科医のGholamrezanezhad先生のチームは1月に、CTスキャンを使って患者の肺の追跡調査を開始しました。33人を1ヶ月以上フォローしたところ、3分の1以上が目に見える傷跡が残るほどの組織死を起こしていました。ほとんどの方は入院しませんから、このような中期的な肺障害は感染者全体の10%以下ではないかと、先生は推測しています。これまでに2820万人が感染していることが分かっており、肺は臨床医たちが検出した損傷個所の一つにすぎないことを考えると、その低い割合でも何十万人もの人々が持続的な健康上の影響を経験していることを暗示しています。

医師たちは今、パンデミックによって持続的な病気や障害と闘う人々が大幅に急増することを懸念しています。この感染症は非常に新しいため、どんな長期的な影響が出るかは誰にも分かりません。予備研究や他のコロナウイルスの今までの研究は、ウイルスは複数の臓器を傷つけ、予期しないような様々な症状を引き起こしうることを示唆しています。軽症であっても、人生を変えるような影響、特に慢性疲労症候群に似た体調不良がいつまでも続く可能性があります。

多くの研究者が、COVID-19患者の追跡調査に着手しており、特定の臓器やシステムに焦点を絞っている研究者もあり、様々な影響を追跡することを計画している研究者もいます。イギリスの「退院後COVID-19研究(PHOSP-COVID)」は1万人の患者を1年間フォローすることを目指しており、アメリカでは7月末に、2年間にわかって数百人を対象として似たような研究を開始しました。「COVID-19の回復者のケアはどうあるべきかについての臨床ガイドラインが必要です」と、COVID-19患者をサポートするクリニックを設立しているボストン大学医学部の感染症臨床医であるナヒド・バデリア先生は語ります。

アメリカ国立アレルギー・感染症研究所の免疫学者であるヘレン・スー先生は、「初期には全てが急性でしたが、今では更なる問題がある可能性を認識してきています。長期的研究は明らかに必要です」と語りました。medRxivというプリプリントのサーバーに8月に掲載された研究では、入院患者を追跡し、退院後1ヶ月たっても70%以上の患者が息切れを報告し、13.5%が自宅で酸素を使用していることが分かりました、

 2003~2018年に北京大学人民病院のPeixun Zhang氏らは、SARSで入院した71人の健康を追跡調査し、15年後にも4.6%には肺に可視病巣があり、38%は肺の拡散容量が減少しており、これは肺が酸素を血液中に運び、二酸化炭素を取り除く力が弱っていることを示しています。

COVID-19から回復した人の中には、免疫系が弱くなってしまった人がいる可能性がありますが、多くの他のウイルスも同様のことをすると考えられています。ス―先生らは、免疫系を傷つけ、ウイルスに感染しやすくする遺伝的変異体を見つけることを目的に、世界中から何千人もの人をプロジェクトに登録したいと思っています。なぜ症状が持続するのかを理解し、助ける方法を見つけるために、長期的な機能障害を有する人達にも研究を広げる計画です。

ウイルスは、免疫の一部を過活動にさせ、全身に有害な炎症を引き起こす、逆の影響を及ぼす可能性もあります。少数のCOVID-19の子どもたちが、なぜ広範囲の炎症や臓器の問題を発症するのかを説明できるかもしれません。こうした過剰反応は、重症の成人COVID-19患者にも起こりえ、ウイルスが自然経過をたどった後の連鎖反応について、研究者達はもっと知りたいと思っています。

過活動の免疫系は炎症をもたらす可能性があり、特に影響を受けやすい臓器は心臓です。中国の四川大学の循環器専門医のChen先生は、「COVID-19の急性期には、約3分の1の患者が循環器症状を示し、これは短期的な影響です。中には、循環器症状が『長い間残る』危険性のある患者もいます」と語ります。

6月初めにイギリス心臓病支援基金は、6つの調査プログラムを発表しました。その中の一つでは、6ヶ月にわたって入院患者の心臓や他の臓器への損傷を追跡します。3月に着手されたCAPACITYレジストリーのようなデータ共有イニシアチブでは、循環器系の合併症のあるCOVID-19患者について、数十のヨーロッパの病院から報告を集めています。

COVID-19の神経系や心理的予後を理解するためにも、同様な長期的研究が必要です。多くの重症患者は、せん妄のような神経系の合併症を経験します。混乱や記憶喪失などの認知機能低下が、急性期の症状が一掃された後にしばらく持続するというエビデンスが存在します。

COVID-19の長期的影響の一つで、最も油断のならない極度の疲労は、最も理解されていません。この9か月間に、ウイルス感染後に体の自由を奪うほどの極度の消耗や体調不良を報告する人々の数が増えています。Facebookのようなサイト上の支援グループは、時に彼らを「長引いている人々」と呼んでいます。ローマの病院を退院した143名のCOVID-19患者の研究では、発症して平均2ヶ月後にまだ53%が疲労を訴え、43%が息切れをしていました。中国の研究では、3ヶ月後に25%に肺機能の異常があり、16%に疲労感が残っていたことが示されました。

英国のリバプール熱帯医学校の感染症研究者であるポール・ガーナー先生は、最初の症状は軽かったのですが、体調不良、極端な感情や極度の消耗などの急激な変化を経験しました。頭は霧がかかったようになり、息切れから両手の関節炎まで、ほとんど毎日のように新しい症状が現れました。これらの症状はME/CFSに似ています。医療従事者は何十年もこの疾患を定義しようと苦労してきました。バイオマーカーが知られていないため、症状に基づいて診断することしかできず、原因が十分理解されていないため、どうやって治療法を開発するかも明らかではありません。患者たちによると、医者の否定的態度も続いているそうです。

COVID-19後に慢性疲労を訴える患者も、同じような困難さを語ります。多くの「長びいている人々」は、医師からのサポートがほとんど得られないか、全く得られないと話します。なぜなら彼らの多くはほんの軽症か、あるいはまったく症状が無く、入院することもなく、死の危険に陥らなかったからです。疲労は重症患者に限られていないようで、軽症患者で、ウイルスの検査を一度も受けなかったかもしれない人々にもよくみられます。

新型コロナウイルスがこれらの症状の背後にあるかどうかを確かめる唯一の方法は、ウイルスにかかったことが分かっている人とそうでない人を比較し、疲労が現れる頻度や形を見ることだと、米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターで新興病原体を研究しているダニエル・シャートー先生は話します。そうでないと、異なる理由で疲労が出現し、違った治療を必要としているかもしれない人を一緒にする危険性があります。

コロナウイルスによる感染が長期的な疲労を引き起こすという、SARSからのエビデンスがあります。カナダのトロント大学のモルドフスキー先生らは、感染後に13~36ヶ月間働けない状態であった22名の患者について、持続的な疲労、筋肉痛、抑うつ、睡眠障害があったと説明しています。2009年に発表された別の研究では、SARS患者を4年間追跡し、40%に慢性疲労がみられました。多くは失業し、社会的な汚名を着せられていました。

ウイルスがどうやってこうしたダメージを与えうるのかは明らかではありませんが、2017年の慢性疲労症候群に関する論文のレビューによると、多くの患者には感染がきっかけとなった可能性のある低レベルの炎症が持続していることが分かりました。

イギリスのME協会は、ウイルスに感染後、エネルギーレベルが元に戻らないという、感染前は健康であった多くの患者からの報告を受けており、慢性疲労症候群の新しい症例が増えると予期しています。研究者達は、長期的影響について徹底的な調査を今、開始することが極めて重要であると語っています。

※英語の原文はこちらからご覧頂けます