20.7.17The ScientistにCOVID-19とMEの記事

7月17日付のThe Scientist(生命科学の月刊誌)に、「COVID-19は一部の患者に慢性疾患を引き起こしうるか」と題する記事が掲載されました。米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のファウチ所長の発言や、米国国立衛生研究所(NIH)、モントリオール大学、コロンビア大学、エール大学、イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンで行われている、COVID-19とME/CFSの研究について書かれています。

32歳のハナ・デービスは3月下旬に発症し、もう3ヶ月になります。発症した頃は最重症のCOVID-19患者だけのためにPCR検査は確保されていたため検査を受けられず、一般的にウイルス量が検出できるレベル以下になる発症1ヶ月後にやっと検査を受けられましたが、結果は陰性でした。しかし主治医は、彼女の様々な症状を基に、COVID-19との診断を下しました。

「(COVID-19後の体調不良が)長引いている人々」の多くは、この数ヶ月で回復する可能性もあります。しかし、いくつかのウイルス感染症と関連付けられ、そして身体を衰弱させるのにほとんど理解されていない病気ME/CFSを発症するのではないかと、ますます心配を募らせている科学者たちもいます。例えば、7月9日の記者会見で、米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、「長引いている人々」の一部の症状は、ME/CFSの症状に似ていると言及しました。「長引いている人々」の一部がこの病気を発症するかどうかを追跡するための研究が現在進められています。もし発症すれば、発症機序や治療法の可能性を早く探究するためにです。

「何百万人という人が大量に感染しており、長期的予後を本気で心配しなければならないと思う。初期には治療や予防接種、抗体などの供給が非常に強調されたが、長期的予後は当然受けるべく注目を集めていない」と、米国国立衛生研究所(NIH)・国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の神経ウイルス学者のアビンドラ・ナス先生(NIHにおけるウイルス感染後ME/CFSの包括的研究の主任研究員)は言及しました。

【ウイルス感染とME/CFS】
累積したエビデンスは、医師たちが「労作後の消耗(不調)」と呼んでいる中核症状によって特徴づけられる、明確な臨床症候群であるME/CFSの誘因に、ウイルスが関与している可能性を示唆しています。軽い散歩やアンケートに回答した後などに、ME/CFS患者は何日も何週間も寝たきりになることがあります。

「それは他の病気にはない」と、カナダのモントリオール大学でME/CFS研究ネットワークを率いるアラン・モロー先生は語ります。「集中力低下や『ブレインフォグ(脳に霧がかかったようで頭が働かない)』もこの病気によくある」とコロンビア大学の免疫学者であるマディ・ホーニング先生は付け加えます。もっと運動するように助言する医師もいますが、それは患者の状態を悪化させると、キングス・カレッジ・ロンドンの遺伝疫学者のフランシス・ウイリアムズ先生は言及します。

この疾患の原因はまだ謎ですが、一つの調査では、75%近くのME/CFS患者が症状発症前にウイルス感染にかかったと述べています。他の研究ではウエストナイルウイルス、エボラウイルス、EBウイルスなどの特定の病原体と関連付けており、2003年のトロントでのSARSの流行における一つの研究では、SARSの集団発生3年後にも、感染者の間で広く疲労や疼痛が見られたとしています。

こうした知見によりモロー先生は、新型コロナウイルスも一部の患者に長期的障害を残しうることをほとんど疑っていません。「世界中で何百万人もがCOVID-19にかかっているのですから、問題はME/CFSを発症するかどうかではなく、何人が発症するかです。」目安は6ヶ月であるとナス先生は語り、自身のME/CFSの研究の一つから、半年以上症状が継続すると、回復する患者は稀であることが示唆されることを引用しました。彼や他の研究者達は現在、新型コロナウイルスがME/CFSの誘因となるかどうかだけではなく、どうやって発症するのかの探究を開始しようとしています。

【なぞに満ちたメカニズム】
研究者達は、活発に複製している高レベルのウイルスのエビデンスを探すために、ME/CFS患者の血液を詳細に調べましたが、見つからなかったとナス先生は語ります。しかし、免疫系の過活動を示す可能性のあるインターフェロン-γや他のサイトカインのような、異常に高レベルの一定の免疫駆動分子を示す患者もいます。「これらは、重症になってサイトカインストームを発症しているCOVID-19患者において増加がよく見受けられる、同じ炎症性マーカーであるサイトカインです」とホーニング先生は語ります。「免疫系がどう新型コロナウイルスに反応し、実際に長期的問題の誘因になるのかを解く手がかりを、目の当たりにしているのでしょう。」

通常は、感染が抑えられた後、体が免疫応答を制御しますが、恐らくCOVID-19は一部の患者において、免疫系の過活動状態から抜け出せなくさせ、血液にサイトカインの雨を持続的に注いでいる可能性があると、エール大学の免疫学者である岩崎明子先生は言及します。あるいは、ウイルス自体は体から完全に根絶されても、いずれかの臓器の中にRNAウイルスの断片を残すのかもしれません。RNAそのものや翻訳されたたんぱく質は、いったん体の中のB細胞やT細胞に見つかれば、免疫応答を引き起こしうると、岩崎先生とナス先生は示唆します。

新型コロナウイルスによって引き起こされた免疫の混乱が、どういうわけか一部の患者において自己免疫反応の誘因となるというのが、ナス先生が最も有望だと考えるメカニズムです。T細胞にどのたんぱく質を攻撃するかを指示するプロセスにおいて、マクロファージは体の自らのタンパク質をT細胞に提示します。こうした悪党T細胞は、通常免疫系によって除去されますが、ウイルス感染中に体の炎症シグナルが混乱しているため、その選別プロセスを逃れるT細胞もある可能性があると、岩崎先生は語ります。

新型コロナウイルスが自己免疫を引き起こしうる他の方法もあると、ホーニング先生は言及します。一度、ウイルスのRNAやたんぱく質が免疫細胞の中に忍び込めば、ミトコンドリアの機能を混乱させ、細胞の代謝や機能を変え、自己免疫反応の誘因にさせる可能性が高まります。

どうやって免疫の過剰活性化がME/CFSの一部の症状をもたらしうるのかは、まだはっきり分かっていませんが、癌細胞の増大が癌患者の疲労の原因になるのと同様に、慢性的な免疫活性化が単純に体のエネルギーを消耗させる可能性があると、ナス先生は示唆します。あるいは、プロセスは脳の中のウイルス感染から始まり、臓器と免疫系のコミュニケーションが中断されるからかもしれないと、ナス先生は語ります。「軽度の脳炎、脳の中に炎症があって、どういうわけか免疫系の異常を引き起こし、疲労様の症状の原因になっている可能性があります。」

必ずしも自己免疫の関与しない他のメカニズムの可能性があると、モロー先生は言及します。モロー先生らはME/CFSのバイオマーカーを見つける取り組みとして、健常対照群の血液と比較して患者の血液中に検出可能なマイクロRNAシーケンスには独特のパターンがあり、この疾患は遺伝子発現の中の広範囲の変化と関連していることを示唆していることを研究(未出版)の中で発見しました。ウイルス感染が遺伝子発現の後成的変化と下流の代謝性変化の引き金となり、それがME/CFSの原因となる可能性を、先生は示唆しています。

【「長引いている人たち」を追跡する】
もしCOVID-19が自己免疫疾患を招きうるなら、T細胞やヒトたんぱく質に向けられた他の免疫機構の形で、患者の血液中にそのプロセスがはっきり表れるはずだと、岩崎先生は語ります。岩崎先生らは、疾患を追跡し、すぐに回復する患者とそうでない患者の免疫プロフィールを比較するために、新型コロナウイルス陽性の何百人という入院患者から血液検体を集め始めました。

ウイリアムズ先生とホーニング先生は、「長引いている人々」の病気の進行を同定し追跡するために開発されたアプリを活用しています。ウイリアムズ先生のアプリは、新型コロナウイルス感染を記録し、症状について定期的報告を提出するよう促すもので、英国の3月の感染ピーク直前にリリースされ、300万人がダウンロードしました。その内の3000人は双子で、遺伝的要因がどう健康に影響を与えるかを調べる長期的研究の一部で、パンデミック前に遺伝子検体と共に血液検体もすでに提供されました。ウイリアム先生らはこのデータを使って、誰が長期疾患にかかるかを決定するのに役立つ遺伝学的・免疫学的要因の解明を試みます。

COVID-19患者の回復の長期的研究に着手しているナス先生モロー先生は、このパンデミックを、最終的にME/CFSの原因を解明し、早急に治療手段を見つけるための絶好の機会と捉えています。COVID-19患者だけではなく、すでにME/CFSにかかっている何百万という患者も恩恵を受けます。

COVID-19患者の中にME/CFSを発症する人がいることに、政府や政府機関は焦点を絞るべきだと、ナス先生は語ります。「早急にこの領域に関心をもち、多くの人にこれらの患者の研究に興味を持たせ、真相を究明するために資金を当てる必要があります。もしそうしなければ、良い機会を逃すことになります。」

※英語の原文はこちらからご覧頂けます