20.6.25ジェイソン先生のCOVID-19の論文

6月25日に、シカゴのデポール大学教授のレオナード・ジェイソン先生の、「過去の流行から学ぶウイルス感染後疲労とCOVID-19」と題する論文が、Taylor&Francis Onlineに発表になりましたので、一部をご紹介致します。ジェイソン先生は2004~2009年に国際ME/CFS学会の副会長を務められ、英国のドキュメンタリー映画「闇からの声なき声」にも出演されています。

要約
新型コロナウイルスによって引き起こされたCOVID-19のパンデミックは、世界中の人々に深刻な影響を及ぼし、死亡率も高い。本論文では、COVID-19後の回復に関連しうる合併症の可能性を評価するために、過去の流行や感染症が与えた健康上の短期的・長期的影響についての文献をレビューする。流行後又は感染症後の回復に関する過去の研究において、このような合併症には激しい疲労の発症が含まれることが示唆された。感染の重症度に加え、多くのCOVID-19患者が経験した「サイトカインストーム」のような一定の要因が、その後の健康上の問題の発症に寄与している可能性がある。過去の流行や感染症に見られたパターンが、現在のCOVID-19のパンデミックにおいても再発しうると我々は提案する。

ウイルス感染症:流行
近代における最も破壊的な流行は、H1N1亜型インフルエンザウイルスによって引き起こされたスペイン風邪である。このパンデミックによって世界中で亡くなった人は、2470~5000万人と研究者達は推定している。回復した人の中には、回復期に合併症を経験した人もおり、例えば、1000人の内200人は完全に回復せず、その中の40人は重症のままであった。身体的労作が回復を妨げ、又は死に至らしめた一つの要因として挙げられている。疲労がスペイン風邪に最もよく見られた長期的予後であった。

他の流行発生後にも、ウイルス感染後疲労は見られた。2003年にSARSの集団発生があり、タンジ―らは退院後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月に、回復患者の健康アウトカムを評価した。研究対象の半分以上の患者が回復期にずっと疲労を経験し、64%が3ヶ月後にも、54%が6ヶ月後にも、60%が12ヶ月後にも疲労を報告し、症状は睡眠障害を伴って起きることが多かった。

さらにラムらは、香港においてSARSから回復した患者の4年後のフォローアップ評価を実施し、40.3%が慢性疲労を、27.1%がME/CFSの診断基準を満たしていることを認めた。なかでも、多くの患者が重度又は何もできなくなるほどの疲労、筋肉痛、睡眠障害を経験していた。

2009年にH1N1亜型インフルエンザのパンデミックが起きた。マグナスらは、ノルウェーでこのパンデミックの研究を行い、1ヶ月にME/CFSの発生率が10万人中2.08人であることが分かった。30歳以下の人の発生率の方が高く、若い世代に感染後にME/CFSを発症するリスクが高いことが示唆された。

エボラウイルス感染症から回復した患者にも、ウイルス感染後疲労が見られた。ウイルソンらは、エボラウイルス後に異常なレベルの疲労を経験した人は、28%と推定した。エボラウイルス後症候群は、ME/CFSによく見られる症状、中でも疲労、筋肉痛・関節痛、睡眠障害などは共通していた。

ウイルス感染後疲労の発症は、他の研究においても認められる。コープらは、一般的なウイルス感染症発症6ヶ月以内では、17.5%の患者が慢性疲労を発症することを見出だした。さらにガーシアらは、ウエストナイルウイルス感染症から回復した人の約31%が慢性疲労を経験し、その内の64%はME/CFSの診断基準を満たしていることを認めた。

疲労は、パンデミックではないウイルス感染後にも見られた。例えば、ボゴビックらは、ダニ媒介性脳炎から回復している間に、3分の1の患者が持続的疲労と筋肉痛を経験したことを見出だした。脳炎後症候群と分類され、これらの症状は何年も持続する可能性がある。

EBウイルスは、ウイルス感染後疲労の原因として最もよく研究されてきた。EBウイルスは伝染性単核球症とよく関連付けられる。ホワイトらは、伝染性単核球症発症後6ヶ月に、研究対象者の9%がME/CFSを発症したことを認めた。前向き研究においてキャッツらは、伝染性単核球症を発症した12~19歳の思春期の参加者301名をフォローし、ME/CFSを発症した率は6ヶ月後に13%、12ヶ月後に7%、24ヶ月後に4%であった。

ウイルスが原因でない疲労についても調査が行われた。コクシエラバーネティーが原因の珍しい細菌感染であるQ熱発症5年後の疲労のレベルを、アイヤらは評価し、疲労や関節痛などの症状のあった研究対象者がME/CFSの診断基準を満たしていることを認めた。

ノルウェーにおける飲料水媒介のランブル鞭毛虫の地域的集団発生は、ジアルジア症を引き起こし、長期的疲労の原因ともなった。集団発生の2年後、モーチらは集団発生患者の41%が疲労を報告した。ネスらは、ジアルジア症に感染した患者の5%が二度と完全に回復することなく、その内の60%がME/CFSの診断基準を満たしていた。デングウイルスが原因のデング熱から回復した患者にも、広く疲労が見られた。

過去の流行や、ウイルス感染・非ウイルス感染の断続的研究によって示された豊なエビデンスを考慮すると、COVID-19から回復した患者の中には、ウイルス感染後疲労や他の様々な症状を発症する人がいるであろう。

結びの言葉
SARSやエボラウイルスのような流行の回復者の中には、高レベルのウイルス感染後疲労がよく見られることが、過去の研究によって示された。さらに、流行やパンデミック規模以外でもよく起こる伝染性単核球症のような感染症と疲労は、関連付けられてきた。この種の結果は、ウイルス感染に限らず、細菌感染でも同様である。このようなエビデンスを考慮すると、我々はCOVID-19から回復した患者の中には、疲労や他の合併症を発症する人がいることを予期する。

闘病中に経験した「サイトカインストーム」が持続し、長期に及ぶ疲労などの他の合併症に寄与しているかどうかを評価するために、COVID-19から回復した患者のサイトカイン・ネットワークを解析する研究をする必要がある。

COVID-19においてもウイルス感染後疲労が起きるという我々の主張は、患者団体によって実施された調査に関するインターネットの最近のいくつかの投稿によっても支持される。例えば、ボディーポリティクスCOVID-19サポートグループは、640人のCOVID-19患者が2週間以上経験した症状のデータを集めた。調査時において、91%の回答者は40日間症状を経験した後も完全には回復していないと報告した。さらに70%の患者が、病気の異なるステージにおいて、新しい症状があらわれたと報告した。最も憂慮すべきは、多くが様々な情報提供者から、回復力に影響を与えるような体系的なスティグマを経験していたことだ。

他の事例報告は、COVID-19から完全に回復していない患者の多くが、疲労、筋肉痛、心臓の問題、湿疹などの長引く症状を経験している。事例的エビデンスは、COVID-19から回復中の患者の中には、ME/CFSのような症状を発症している人がすでにいることを示唆している。もう一つの患者から得られたサンプルにおいてペトリソンは、COVID-19がME/CFSやカビ関連の疾患の患者に共通する悪化する症状に、長期的影響を与えることを示唆した。

この流行が始まって以来、COVID-19の長期的経過を研究するのに十分な時間は経過していないが、長期に及ぶ深刻な健康上の予後が起きる可能性に関する報告が表れてきている。例えば、イタリアの数人の患者がギランバレー症候群を発症した。川崎病を発症した小児の報告もあり、COVID-19が引き起こした肺の瘢痕化、血栓、腎不全、神経系の合併症などの報告もある。シらは、416人のCOVID-19で入院した患者の19%に、心臓障害の兆候があることを示した。COVID-19に関するこの種の知見は、一部の回復者はウイルス感染後疲労を含む様々な長期的な合併症を経験するであろうという我々の主張を補強している。

※英語の原文はこちらからご覧頂けます