20.6.26 New York TimesにCOVID-19の記事

6月26日付のThe New York Timesのオピニオン欄に、「新型コロナウイルスは脳に損傷を与えうるか」と題する記事が掲載されました。このウイルスが脳に損傷を与える可能性や感染症と神経系疾患との関係、神経系損傷のリスクを減らすための研究の重要性について書かれています。

チェルシー・アリオナーは3ヶ月間、熱、頭痛、めまい、そして、あまりに症状が激しく早期の認知症のように感じられるブレイン・フォグ(脳の中に霧がかかったようで頭が働かない)に悩まされてきました。3月9日にひどい頭痛に襲われ、その後、味覚と嗅覚を失い、最終的にウイルス陽性の結果が出ました。「同じことを繰り返し話し、知っている言葉を忘れたりします」と話します。手足の指が麻痺し、目がかすみ、疲労が非常に激しいです。症状が80日以上続いているCOVID-19回復者のフェイスブックのサポートグループ、その4,000名以上のメンバーの一人です。

このウイルスについて色々と分かってくればくるほど、これはただの呼吸器感染症ではないことを理解します。このウイルスは、脳と中枢神経系を含む身体の主要な様々な臓器系に損傷を与える可能性があります。中国の武漢の入院患者の3分の1以上が、発作や意識障害を含む神経系の症状を経験しました。6月初めにフランスの研究者達は、集中治療室に入った84%のCOVID-19患者に神経系の問題があり、33%は退院時に混乱し見当識障害があったと報告しています。

コロンビア大学公衆衛生大学院の精神科医であり疫学者であるマディ・ホーニング博士によると、「今後、神経系の問題が持続し、障害や困難さを生む可能性はますます高くなってきているようです。」

感染症は神経系疾患と関係づけられてきました。梅毒とHIVは認知症を誘発することで、ジカ熱は治療しないと発達中の脳に侵入し、成長を抑制することで知られています。SARSにかかった一人の方は、せん妄を発症して昏睡状態になり、死亡後に脳の組織からウイルスが見つかりました。

COVID-19患者全員の脳が損傷されるとは、神経学者達は考えていません。しかし実際、このウイルスは、まだ十分に理解されていないいくつかのメカニズムにより、脳を傷つけ、老けさせる可能性があります。こうした脳損傷は、人の一生の間に蓄積される可能性のある他の種類の損傷とそんなに違わないと思われます。問題は、「COVID-19ではこれらが大量に同時に起きることです」と、ジョンズ・ホプキンス大学と提携している神経学者であり神経科学者であるマジド・フォツヒ先生は語ります。

テキサスA&T大学の微生物病理学と免疫学の教授であるジェフリー・シリロ先生は、研究者達はこのウイルスが直接、神経細胞に感染しうることを示唆していると語ります。ウイルスは細胞内で複製し、細胞機能に関わる可能性が高いです。

このウイルスが神経系に損傷を与える可能性のあるもう一つの方法は間接的で、体の免疫応答によって引き起こされた広範囲の炎症を通してです。「炎症は脳に悪いことを事実として我々は知っています」とフォツヒ先生は語ります。炎症によってアルツハイマー病が起きるというのが、アルツハイマー病研究の有力な学説の一つです。

もし炎症が「サイトカインストーム」を伴うほど激しくなると、血液脳関門が破られ、ウイルスとサイトカインがさらに脳の中に入り込むことを可能にし、最終的に脳の細胞を殺します。

少数のCOVID-19患者は、免疫系が自分自身の神経を攻撃し麻痺が起きる病気である、ギランバレー症候群を発症しました。コロラド州の41歳の心理療法士であるミケール・ハートもその一人です。持続的な記憶力低下とめまいの他に、未だに神経痛に悩まされています。「常にちくちくしたしびれと刺すような痛み、皮膚が焼けるような感覚もあります」と語りました。

これらすべての懸念を考えると、どうやって神経系が回復するのか、あるいは回復しないのかを理解するために、COVID-19患者を研究することが重要であると、神経学者達は主張しています。シリロ先生やホーニング博士は、このテーマの研究に着手していますが、更なる研究が必須であると語ります。

「人々がこのことを認めるのに非常に時間がかかっていますが、できるだけ早くどんな長期的な影響が出るのかを知ることが本当に必要です」とシリロ先生は語ります。とりわけ、このテーマについての研究によって、COVID-19患者の神経系損傷のリスクを減らすことが可能な薬や他の治療法を同定することができるかも知れません。

COVID-19患者は認知・神経学的アセスメントと初期段階での神経学的治療によって恩恵を受ける可能性があることを、医師たちも念頭に置いておく必要があります。フォツヒ先生は、COVID-19で入院する全ての患者は、初期の問題を同定するために、脳のMRIを撮るべきだと考えています。

このパンデミック中の今まで、医療者コミュニティーは主にCOVID-19患者の命を守ることに焦点を合わせてきました。しかし、このウイルスが患者の残りの一生をどう形作ることになるのかをよく考える必要があります。

※英語の原文はこちらからご覧頂けます