20.5.30Washington PostにCOVID-19とMEの記事

5月30日付のThe Washington Postに、「COVID-19は一部の患者に長期にわたって身体を衰弱させる病を引き起こす可能性があると研究者達は警告している」と題する記事が掲載されました。アメリカの国立衛生研究所(NIH)やコロンビア大学、スタンフォード大学で行われようとしている、COVID-19とME/CFSに焦点を合わせた研究の内容について書かれています。ナス先生は、NIHにおけるウイルス感染後ME/CFSの研究の主任研究員です。

ウイルス感染後にかかりうる長期にわたる病気は破壊的であり得、ごく一般的です。アメリカの医療に関するトップの諮問機関である米国医学研究所(IOM)は2015年に、米国のME/CFSの患者数は80万~250万人と推定。推定4分の3の患者はウイルス感染か細菌感染が引き金となり発症しています。

新型コロナウイルス感染症後に、多くの人々に一生涯続き、中には身体に障害が及びうるウイルス感染後の問題を残す可能性もあると、研究者達は警鐘を鳴らしています。米国国立衛生研究所(NIH)等でウイルス感染後ME/CFSの研究をしてきた科学者たちは、この機会を捉えてCOVID-19患者に焦点を合わせた研究を行おうとしています。健康を取り戻す人と、具合が悪いままになる人を分ける生物学的要因を理解したいと思っています。

COVID-19患者の研究をする準備をしている、NIHの臨床センターの臨床神経学部長であるアビンドラ・ナス先生は、「誰が回復し誰が回復しないのかを診たいと思っています。患者の中には二度と健康を取り戻せない人がいる可能性が大いにあります」と語ります。肺、腎臓、心臓へダメージを及ぼすとする報告が浮上しているのに加え、ME/CFS患者であればよく知っている、継続的で押しつぶされるような疲労、筋肉痛、思考力低下などの症状を、COVID-19患者は訴えています。

研究者達は、少なくともCOVID-19患者の一部は具合が悪いまま、最終的にウイルス感染後ME/CFSを発症すると思っています。彼らがそう思うのは、以前に行われた研究に基づいています。EBウイルスやロスリバー熱、Q熱などの他の集団発生の研究において、実際に病気にかかった人の中の12%までは、二度と完全な健康を取り戻せず、最終的にME/CFSと診断されました。

世界中で8000人がかかった2002~2003年の最初のSARS の流行後、その種のコロナウイルスから回復した369人の患者の27%が、数年後に慢性疲労症候群の診断基準を満たしたことを、一つの研究は示しました。もしこのような数字が新型コロナウイルスで見られれば、米国は何百万という破滅的な数の慢性ウイルス感染後疾患の患者がでる方向に向かっています。

我々が開始しようとしているいくつかの研究の中で最も重要な研究は、コロナウイルスに感染した患者を集め、ME/CFSに移行するかどうかを時間の経過とともにフォローすることです」と、スタンフォード大学の遺伝学者であり、成人した息子がこの病気の重症患者であるロン・デービス教授は語ります。「COVID-19から完全には回復できないかもしれないという事実を指摘すれば、この問題に人々は注意を払うでしょう。医師たちがCOVID-19の情報を読み、二度と良くならない人々に目を光らすことが、極めて重要です」

ウイルス感染は、熱や炎症などの一般的な免疫応答の誘因となりますが、ウイルスが取り除かれた後も、こうした防御が時にはうまくいかなかったり、「オン」の状態で動かなくなってしまうことを、最先端の研究は示しています。

NIHの感染後ME/CFSの入院研究では、患者の生物学的基盤を探求しており、その研究では2回の入院で広範囲に及ぶ一連の医学的検査を受けます。ナス先生の研究チームは現在、COVID-19後の患者さんの追跡をするために、同様の研究を行おうとしています。COVID-19から回復した患者を、この夏にもNIHの病院に入院させたいと思っています。

NIHでは、COVID-19からの回復者の免疫系を研究する計画です。並行して、代謝の問題を見極めるための運動検査や、脳が心拍数や血圧を調節する仕方におけるすべての機能障害を詳細に記録するための他の検査を実施する予定です。この領域、すなわち自律神経系における問題は、ウイルス感染後疲労症候群とME/CFSに共通しています。

神経ウイルス学者であるナス先生は、COVID-19で亡くなった約12人の患者に剖検も行いました。研究室が再開できる条件が揃ったら、ナス先生はこれらの患者の脳の中にコロナウイルスを探し、COVID-19で起こりうる不可抗力的な炎症によって引き起こされた神経系の損傷を探る計画です。研究者達は、脳における低レベルの炎症を含む持続している炎症が、ME/CFSにおいて起きている可能性を示す手がかりについて公表しています。

何十年も軽視されてきたME/CFSの研究は、ここ数年で勢いがついてきました。政府の予算が低いままである間に、患者の脳の機能障害や免疫系における広範囲な問題について、ME/CFSの研究者たちは詳細に記録しました。最先端の研究は身体のエネルギー産生能力の損傷についても光を当て、ME/CFSの中心には文字通りエネルギーの欠乏の問題があると考える科学者もいます。ナス先生や他の研究者は、COVID-19からの回復者のエネルギー産生について研究する計画です。

NIHは、アメリカで入院した2000人までのCOVID-19患者の長期的コホート研究にも資金提供していると、国立アレルギー・感染症研究所のジョセフ・ブリーン先生は語ります。「これらの人々の追跡調査を行うことができます。もし縦断的な後続研究を正確に行えば、ME/CFSの割合や他にも存在しうる問題を理解するのに真に役立ちえます。別のコロナウイルスによって引き起こされたSARSやMERSでは学べなかったことを我々は学ぶでしょう。長期の体調不良の危険因子として知られる集中治療室への入院や人工呼吸器装着による長引く影響と、ウイルス感染後疲労症候群やME/CFSを鑑別することは挑戦です。」

コロンビア大学公衆衛生大学院の免疫学者であるマディー・ホーニング先生のグループは、誰がME/CFSを発症するかを見るために、嗅覚喪失を含む様々な神経症状について、COVID-19患者の追跡調査を行う計画です。ME/CFSの研究において症例数の少ないアフリカ系アメリカ人、ヒスパニックやネイティブアメリカ人の患者も募る予定です。

NPO法人のオープン・メディスン・ファンデーションと提携しているスタンフォード大学のデービス先生は、OMFより資金提供を受けたクリニックにおいて、COVID-19患者から血液を集め、活動追跡デバイスの装着をお願いしています。「3ヶ月、6ヶ月かそれ以上の間調査し、誰がME/CFSと診断されるかを診たいと思っています」と彼は語ります。ホーニング先生もデース先生も、COVID-19患者を見守ることで、ウイルス感染後疾患においてうまくいかなくなるものを逆戻りさせる薬を探す研究のスピードを上げられる可能性があると語ります。

「科学的に最も重要なのは、なぜME/CFSに移行するかを見ることだと思います。移行する患者とそうでない患者では何が違うのか、それを見極めることは極めて価値が高く、どうやって治療するかを知る貴重な手がかりとなりえます」とデービス先生は語ります。

歴史的にME/CFSは無視されてきたため、COVID-19の追跡調査をしている多くの医師や研究者は、ゆっくりとしか回復しない患者において新しい現象を発見していると思うかもしれません。そうではなく、何十年にもわたって知られながら、無視され続け、多くの人を苦しめている一般的な病気を、再発見することになるでしょう。

英語の原文はこちからご覧頂けます