19.9.15医療講演会で佐藤先生が講演されました

9月15日(日)に埼玉県障害者交流センター1階ホールにおいて、埼玉県障害難病団体協議会(障難協)主催の医療講演会が開催され、ME/CFSについて取り上げて頂きました。当日は、三ツ林裕巳・衆議院議員、こしみず恵一・前衆議院議員、久保田茂・越谷市議会議員、埼玉県福祉部障害者支援課主幹を含む50名近い方が出席して下さいました。

当日の司会は障難協事務局の宮野さんが務めて下さり、田村彰之助副代表理事の主催者挨拶に続き、後援団体であるNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長より挨拶させて頂きました。続いて、当法人製作のドキュメンタリー映画「この手に希望を~ME/CFSの真実~」医療関係者向け短縮版(43分)を、初公開致しました。

10分間の休憩後、2015年より山村隆先生と共にME/CFSの研究を開始して下さり、今年4月にAMEDにおいて発足した「ME/CFSの血液診断法の開発」研究班研究開発代表者の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部室長の佐藤和貴郎先生にお話し頂きましたので、講演の概要をお伝え致します。

私は代表的な神経免疫疾患である「多発性硬化症」という病気の研究を専門にやってきました。この病気の研究者は神経内科医の一部ですが、相当数おります。現在、この病気は神経難病に指定されていて、しっかりとした診断基準もあり、治療法も多数開発されています。MRI検査によって脳の中に炎症が起こっていることが明確に分かります。ところが30-40年くらい前は原因も分からず、治療法もありませんでした。心理学者のフロイトが活躍した20世紀初頭には、ストレスが原因ではないかと言われた時期もありましたが、免疫学が急速に進歩して、現在では「自己免疫疾患」であるということがはっきりし、それに基づいて様々な免疫治療が開発され、効果をあげています。

2016年の筋痛性脳脊髄炎の会のシンポジウムに参加し、この病気とご縁ができました。よく精神疾患と間違われますが、体の不調からうつになる例(反応性うつ病)は、この病気でもしばしばありうると思います。「本が読めない」「テレビの刺激がきつすぎる」「化学物質などの色々な刺激に対する過敏症」といった症状が多いですが、脳の異常な反応であり、脳が耐えられないから色々な刺激に耐えられないのだと思います。そして睡眠障害、「起立不耐」、息が苦しい、体の冷えなど、色々な症状を訴えます。重症な患者さんが日本や世界にたくさんいるという深刻な事態が明らかになっています。

厚生労働省の研究班の報告書によると、10万人相当の患者さんがいるのではないかと推定され、女性が7~8割ということも分かってきています。この病気を診断するためには、別の病気ではないことをきっちりしなければなりません。精神症状、うつとか「詐病」、こうした捉え方は長い間、この病気に対して一部の医師から言われてきたと思います。「国際的合意に基づく診断基準」に、そうでないことを除外して診なければいけないと書かれています。そういう患者さんとこの病気を一緒にしてしまうと、全然違う病気を一緒にしてしまうことになって、研究も進まないし、治療もうまくいかないかと思います。しかし、この病気によって心が落ち込んだり、うつ状態になることは認めなければいけません。

イギリスの精神科医のグループが、認知行動療法が有効であるという論文を、権威ある医学雑誌「ランセット」に発表し、認知行動療法や段階的運動療法はこの病気に良いのではないかという誤った認識が出てしまいました。しかし、国際学会ではこの論文が非常に問題になり、体の病気なので、脳の方から体を合わせようとしても絶対に無理で、体を主人公にして、そこに脳が従っていくというという考え方でいくべきだと教えられました。アメリカでは2017年に、ガイドラインから認知行動療法などの推薦が削除されました。

この病気が脳の炎症が基盤であるということが、色々な画像研究から段々わかってきています。私達の共同研究者であるNCNP病院の放射線科では、ME/CFS患者さんの脳画像解析を行い、様々な脳のネットワークや情報処理のハブとなる「連合野」と呼ばれる部位の一部の異常を見出し、これは去年、論文として発表することができました。理化学研究所のグループがPETで、脳の中の活性化した細胞をマーカーとして見た場合に、患者さんの視床や扁桃体、海馬と呼ばれる脳の真ん中の周辺部分の活性化が証明されています。脳画像解析は今後、ますます発展していくと思いますので、画像によって異常が同定できるというのが将来の一つの方向性だと思います。

厚労省の調査でも、発症時に感染症のような症状がある方がかなりおり、風邪のような症状をきっかけにガクッと悪くなる方が結構おられます。私たちのME/CFS研究に参加された患者さんの8割以上は女性で、発症して10年位たった方が平均です。免疫関連疾患、バセドー病や気管支喘息、アレルギー系の病気を持っている方も半分くらいおられました。免疫系とこの病気の関係の研究は非常に重要で、抗体を作るB細胞を抗がん剤でやっつければ患者さんの症状が良くなるということが、中規模の治験(30数人の患者)で、3分の2の患者さんで効いたという論文がノルウェーから出ました。

血液の中には、様々な種類のリンパ球(大きく分けてB細胞、T細胞)があります。B細胞は、抗体をどんどん作る細胞とか、免疫の記憶、一度感染症に対して反応して、次に同じ感染症が来た時に、ぱっと反応するようなメモリー細胞、そうでないナイーブ細胞もあり、色々な種類があります。色々な細胞の割合を検討したところ、この病気の患者さんではB細胞の割合が健康な人よりも多いということが分かりました。ただし、健康な人とはっきり分けられる訳ではなく、何割かの人が高いということですので、これだけで病気の診断をすることはできません。しかし、B細胞がこの病気に関係しているということは分かります。

その他、B細胞とT細胞が相互作用するときに働く分子の増加や、ブロックをするブレーキ役の制御性T細胞の低下、活性化B細胞というような変化は、多発性硬化症などの自己免疫疾患と共通する変化です。診断法として開発できたらと考えているのは、次世代シークエンサーを用いたB細胞のレパトア解析によって、B細胞の多様性とか偏りを調べる研究です。色々な感染症に対応できるようにB細胞の受容体には多様性があるのですが、それを情報学的に解析することによって、患者さんで増えている特定のレパートリー(B細胞の種類)があるということが分かってきました。この病気でもある刺激に対して特定の種類のB細胞がどんどん増えるということが見られれば、免疫異常の一つの現れだと思いますし、これを用いて血液診断法が開発できないかと研究を進めています。

自律神経障害はこの病気の重要な症状ですが、自律神経に対する自己抗体があるのではないかという報告が、ドイツのベルリンのグループからありましたが、私たちの診ている日本人の患者さんでも半分くらいの方では何らかの自己抗体があるということが分かりました。このように色々な角度から、血液や画像などの研究を進めることで、客観的な診断法の開発につながりますし、難病指定につながっていく可能性もあると思います。

海外の学会で勉強したことをお話します。エルゴメーターという検査ですが、これは自転車をこいで、呼気中の酸素濃度を測定したり、血液を調べたり、色々モニタリングするものですが、、この病気の方は、一日目にこうした負荷をかけても異常は出ませんが、翌日に同じことをした時に異常がでるということがわかっています。これは、労作の次の日に動けなくなるということを証明する研究です。

メタボロームといって、血液中のさまざまな代謝物(血糖とかコレステロールなど)を、網羅的に何千何百と調べて、どういう物質が増えたり減ったりしているかということを見ると、結論的には冬眠状態と同じような変化が認められました。この病気の本質を捉えている結果だと思います。体のエネルギー産生はミトコンドリアという細胞内小器官がATPというエネルギー物質を作ります。私たちが摂り入れた物質を回して作るのですが、この回路がどうもうまくいっていない、エネルギーを作る能力が落ちているということが、いくつかのグループから報告されていますが、病気の本質を捉えている納得できる結果だと思います。

映画にも出ていたロナルド・デービス博士は、血液中のある変化、ストレス負荷に対する細胞のエネルギー代謝の変化を検出するデバイスを開発しました。患者さんの血液に濃い食塩水を振りかけると、電圧が変化しますが、健康な人に比べて患者さんの血液では、この電圧の変化が大きいということが分かって、これを診断法に使えるのではないかということで論文発表しています。他にも血液中のサイトカインの変化なども言われてきており、それぞれ参考になります。

治療法として、免疫系に作用すると思われる上咽頭擦過療法や、磁気の力で脳を刺激する反復磁気刺激療法(rTMS治療)、和温療法などがあります。一部の患者さんには非常に効果を発揮し、また、さまざまな治療を組み合わせることで効果がある例があるとも聞いています。神経内科医として、私達が取り組むのに適した分野だと思います。神経難病をたくさん診ていますし、色々な神経症状がある病気だからです。残念ながらこれまで、精神科や心療内科医のアプローチだけでは解決できなかった病気でした。

最後にテイクホーム・メッセージです。「ME/CFSは人体の多系統にわたる疾患のため、近代医学の方法論である臓器別医学では理解が困難である。そのため、精神疾患や心身症「的側面」が強調されてきた。」「ME/CFSは様々なスティグマに纏われているため、医療関係者への理解が進みにくい。(病名に疲労が入っていること、AIDSと異なり原因ウイルスがないこと、臓器別医学では病態理解が困難なこと)」「しかし現在、ネットワーク医学へのパラダイムシフトが起こりつつあり、医学研究のフロンティア領域となりうる。ME/CFSの病態解明、診断法開発、治療法開発が世界で果敢に進められている」。それではこれで私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答の時間には、「娘が発症して4年になるが、どうしたら良くなるか」「ME/CFSも色々なタイプに分かれる可能性があるか」「慢性疲労症候群という病名には多くの患者が疑問を持っている。もし新しく病名をつけうのならどんな病名になるか」「娘が発症して5年位になるが、すべての症状がでて苦しでいる。中でも一番つらいのが光線過敏で、医者にも行くこともできない状態をどうやって打破したらよいか」などの質問が出ました。