18.12.9MSの講座で佐藤和貴郎先生が講演

12月9日(日)に国立精神・神経医療研究センター(NCNP)において、第31回多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎(NMO)講演会が開催され、約120名の方が出席されました。MSとNMOについての講演会ですが、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長の佐藤和貴郎先生が、「ME/CFSの免疫学研究」と題してお話しして下さいました。佐藤先生は、昨年11月に発表された‘Brain Abnormalities in ME/CFS’と題する論文の著者のお一人です。

「ME/CFSは、MSやNMOの患者さんにとっても仲間の病気としてこの病気についても考えて頂きたいと思います。最近、研究ではネイチャーという雑誌に、また、ヤフーニュースNHKのハートネットTVなどでも取り上げられました。この病気は、原因がわからない、従って診断も検査がないので診断が難しい、それに対応して治療法がないという問題があります。集団発生が欧米諸国をはじめ世界各国で見られ、ロンドンでの集団発生を受けて、イギリスのグループは筋痛性脳脊髄炎という病名を付けました。アメリカでは80年代に集団発生があって慢性疲労症候群という病名がつけられましたが、両者は同じ患者群を指しているということで、現在ではME/CFSという名前になっています。

この病気の症状は疲労だけではありません。「筋痛性」というのは筋肉の痛みですが、これはない方もおられます。「脳脊髄炎」というのは脳脊髄に炎症があるのではないかと、病名が付けられた当時から言われていましたが、原因ウイルスも見つからず、原因不明の疾患として現在に至っています。症状として一番特徴的で重要なのは「労作後の消耗」と言われるもので、例えば半日くらいは普通の人と同じように外出をしたり、或いは少し仕事をしたりできたとしても、その後、ぐったりして起き上がれないほどの疲労が数日間から一週間も続いてしまいます。ある閾値を超えた労作を行うと、半年以上など長期間に渡ってほとんど動けない状態になって、仕事や家庭生活が満足に送れなくなってしまうという方が多いです。睡眠障害をほぼ皆さん持っておられますし、ブレインフォグと呼ばれるような、頭がうまく働かない、集中力が落ちたというような症状も多いです。多くの患者さんが起立不耐と言って、立つと動悸がして脈が上がるなどして立っていられないという症状、その他、過敏症とか、おなかをこわしやすいなどの消化器症状、体温調整が難しい、或いは全身の痛み、そういう症状を起こす病気です。

推定される患者数は日本では、MS患者よりも多く、10万人に手が届くのではないかと言われていますし、免疫系の関与が以前から言われていて、それに関して私たちは研究をしています。日本人の患者に関する厚労省による調査が数年前にあり、重症度の指標であるPS値が6以上の方、つまり仕事や家事が十分にできない方々が大半であるということ、また、家事をしたら寝込んでしまうという方が半数以上おられるという実態が明らかになっています。

病気の原因に関して、発症するきっかけが風邪のような症状の方が多いです。何らかの感染症、或いはそういう状態が引き金になっている方が多いということです。そして、日本の理化学研究所のPET検査で、脳のミクログリアという免疫細胞の活性化状態を調べ、健常者と比べて患者さんでは、脳のあちこちの部位でミクログリアの活性化が見られたという研究もあります。最近、私たちの研究と平行して、NCNPの放射線診療部の佐藤先生と木村先生によって、脳のMRI画像の解析が行われ、その結果が最近、論文として報告されました。拡散尖度画像(DKI)という、通常のMRI検査では行わない特殊な解析を行ったところ、一人一人ではまだ分からないのですが集団として見た時に、ME/CFS患者では右の上縦束と呼ばれる部分に異常があることが分かりました。これは脳の様々な機能をつなぐ「連合野」と呼ばれるところで、認知機能とかワーキングメモリーとの関連が言われていますので、頭がうまく働かないという患者さんの症状に対応する納得のいく結果だと解釈できます。

私たちが免疫の研究をするきっかけとなった非常に大事な仕事があります。ノルウェーで悪性リンパ腫を合併したME/CFSの患者さんに、悪性リンパ腫に対して抗がん剤であるリツキシマブという薬でB細胞を除去する治療を行ったところ、ME/CFSの症状も良くなったということがきっかけになって、臨床研究や治験が行われました。この論文では28名の患者にリツキシマブを投与し、約3分の2の患者では症状が半年から一年をかけて徐々に良くなってきたという結果を発表しています。この結果から、免疫系の中でもB細胞が重要ではないかと考えられ、私たちは数年前から、患者さんのリンパ球の解析を進めてきました。研究に参加した患者さんは60名で、そのうち女性が8割以上で、発症してから平均で10年位の方が多く、仕事や家事が困難な方が平均くらいの重症度でした。また、発症時に風邪のような症状を認めた方が約6割位おられました。

リンパ球を調べて、抗体を作るB細胞と、獲得免疫の中心プレーヤーであるT細胞について、同じ年齢の健康な成人と比較を行いました。B細胞には色々な種類がありますので、それぞれのB細胞について、またB細胞とT細胞は互いに作用しあいますが、その「相互作用」に関わる分子について調べました。その結果、まずリンパ球全体の中でB細胞の数が患者さんで増えていることが分かりました。また、プラズマブラストはNMOで非常に重要な細胞で、抗体を作る能力が高い細胞ですが、この抗体を作る細胞が一部の患者で増えていました。増えている患者の特徴としては、病気になってから比較的早い時期で比較的重症な患者さんであったということも見いだしました。また、B細胞とT細胞の相互作用に関わる分子が色々ありますけれども、平均すると健常者と比較して患者さんで上がっていることがわかりました。

T細胞はMSでは決定的に重要な細胞で、色々な自己免疫疾患で炎症を引き起こす細胞と、それを制御(抑制)する細胞のバランスが乱れていることがわかっています。ME/CFSも同じような状況で、制御性T細胞の数がME/CFS患者でも減っていることがわかりました。それに対応して、逆に活性化T細胞が増えているという結果が得られました。

B細胞は若い細胞が成熟してメモリー細胞となり、最終的に抗体を作る細胞になりますが、多様な抗体を作る仕組みがあります。なぜB細胞が様々な抗体を作れるのかというと、多様な遺伝子を持っているからです。具体的にはV遺伝子、D遺伝子、J遺伝子という3種類があり、それぞれの遺伝子が多種類あり、その中から一つの細胞あたり一つずつの遺伝子が選ばれていきます。その他にも突然変異とかが入りますから、無数の抗体のレパートリーが作られます。この膨大な抗体レパートリーがどのように構成されているかを網羅的に解析する技術を使って、詳しく患者さんのレパトワ(レパートリー)を見ていきました。その結果、健常者と比較して6種類の遺伝子が患者さんの集団で統計学的有意に増加していることが分かりました。その意味するところは、ある何らかの抗原(それが何かは現時点では不明ですが)が、その受け手のB細胞を刺激することによって、特定のB細胞が選択され維持、あるいは増殖し、体の中に存在している可能性があるということです。患者さん全体で見たときに増えているということですから、この病気と関連する異常なB細胞があって、その正体が少しずつ見えてきたということだと考えています。

今回は約40人の患者さんのデータで比較し、その結果得られたデータを使って、果たして健常者と患者さんの区別ができるかどうか(つまりこの手法によって病気の診断がどのくらいの精度で可能か)、ロジスティック解析を行いますと、かなりの確率でデータだけ見て、このデータを持っている方は患者ですとか健常者ですとか分類できるような結果が得られました。(別の言い方をすると、感度・特異度が高い結果が得られました)。ですから診断マーカーの候補として、さらに研究を進められるのではないかという手ごたえをつかんでおります。

まとめますと、B細胞やT細胞というリンパ球、すなわち免疫系のキーとなる細胞を調べたところ、自己免疫疾患の患者さんと同じような異常が認められたということです。患者さんを紹介して頂いた天野先生、申先生に謝辞を申し上げます。私たちは、山村隆先生が代表を務めるAMED研究「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する診療・研究のネットワークの構築」という事業を今年から始めています。基礎研究だけではなく、医療全体を底上げするような活動が進められたらと考えております。

最後に、この病気についてさらに知りたいという方のために、3つだけ参考となる情報を紹介致します。一つ目は、「筋痛性脳脊髄炎の会」という患者団体ですが、非常に熱心に活動されていて、私たちもたくさんのことを教えてもらって、一緒に協力してやっております。また「ヤフーニュース」に最近、取り上げられましたが、こちらには私たちの研究についても紹介されています。3つ目は、患者さんの生の声が聴けるサイトとして、TED Talkというプレゼンテーションのサイトで、アメリカ人のブレアさんという方が非常に分かりやすくお話をされていますので、興味のある方は見てみたらと思います