18.1.1Brain and Nerveに山村隆先生の論文掲載

18.1.1brain and nerveに記事掲載

医学書院発行の医学雑誌「Brain and Nerve」2018年1月号に、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の今」と題して、ME/CFSの特集が組まれました。その中で、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部の山村隆先生、小野紘彦先生、佐藤和貴郎先生の「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の免疫病態」と題する論文が6ページにわたって掲載されました。大変遅くなりましたが、ご紹介させて頂きます。「Brain and Nerve」は、『脳と神経』 『神経研究の進歩』 の統合誌として2007年に発刊されたもので、日々更新される神経学、神経科学の知見をわかりやすく紹介する医学雑誌です。

ME/CFSはの生物学的病因を探索する近年の研究により、血液・脳脊髄液における種々のサイトカイン上昇、ME/CFS亜群と関連した自己抗体などの異常が明らかにされています。また、B細胞を除去する抗CD20抗体(リツキシマブ)がME/CFSに有効であるという医師主導治験の報告もあり、自己免疫応答亢進などの免疫異常を背景とする中枢神経系炎症がME/CFSの本態である可能性が議論されています。

医学界における本疾患に対する認識は十分ではありませんが、近年、関心が高まり、神経炎症、免疫異常、代謝異常などを想定した生物学的研究が各国で始まっています。この背景には、米国国立衛生研究所(NIH)が積極的にME/CFSの研究を推進していることがあります。2014年にはNIHでワークショップが開催され、ME/CFSは精神疾患ではなく生物学的・器質的異常に基づいて発症し、生命を脅かす深刻な疾患であることが専門家集団によって明言されました。一方欧州では、ME/CFSに対する抗体医薬(リツキシマブ)の有効性を検証する医師主導治験が進行しており、ME/CFSにおける免疫系(とりわけB細胞)の役割が注目されています。また、ME/CFSが自己免疫疾患である可能性も議論されるようになっています。

米国医学研究所(IOM)の委員会は、ME/CFSに関連する多数の論文を精査した結果、ME/CFSはしばしば患者の生命を脅かす、重篤で慢性経過をたどる複雑な疾病であること、精神科的な問題は続発することはあっても問題の本質ではないこと、神経学的異常として白質障害に起因する情報処理能力の低下、PETや機能的MRIにおける異常所見などを合併することなどを明確にし、ME/CFSでは神経伝達物質シグナル異常を示唆する強いエビデンスが存在するとしています。これらの所見は、ME/CFSに相当する疾病概念を神経系疾患に分類しているWHOの国際疾病分類第10版に呼応するものです。

海外では過去に集団発生の報告があり、ウイルス感染との関連が推測されます。ME/CFSの臨床経過は、代表的な免疫性神経疾患である多発性硬化症と一部類似しています。ME/CFSの自己免疫疾患仮説を支持する研究者は、①ME/CFSでは感染性病原体が自然免疫系を活性化し、それに続発して自己抗原への感作が成立しやすくなる可能性、あるいは、②ウイルスが自己抗原と相同性を有するペプチド配列を有し、それに対する感作が自己免疫病態を誘導する可能性を考えています。

2015年にHorningらは、発症後3年以内の早期ME/CFS患者、3年以上経過した慢性期ME/CFS患者、健常者に由来する血液試料を対象とした研究によって、炎症性サイトカイン・抗炎症性サイトカインの上昇、及びサイトカイン間ネットワーク異常が早期ME/CFS患者において証明できること、このようなサイトカイン異常は重症度よりも罹患期間に強く関連することを報告しました。さらにHorningらは、ME/CFS、多発性硬化症、健常者の脳脊髄液試料を用いて51種類のサイトカインを解析したところ、好酸球の遊走に関連するケモカインCCL11のME/CFSにおける上昇を確認しました。またネットワーク解析では、1L-1シグナル経路に関する異常を見出し、中枢神経系における免疫系の活性化は明確であり、それはアレルギー性炎症またはTh2細胞介在性自己免疫応答を反映している可能性があると報告しました。

同じ研究者を含む研究グループによって、最近「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に発表された論文では、患者と健常者の比較解析において、患者群における血清トランスフォーミング増殖因子αの上昇とレジスチンの減少を証明しています。さらにME/CFSの重症度と17種類の液性因子が相関することを示しました。炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン、様々な機能を有するケモカインが同時に変化していることから、これらのME/CFS病態に及ぼす意義は現時点では不明ですが、炎症性サイトカインの介在する炎症反応に拮抗する形で抗炎症性サイトカインが上昇している可能性は考えられます。

ME/CFSにおける神経系抗原に反応する自己抗体の研究が盛んになっています。最近では、ME/CFS患者の一部においてβアドレナリン受容体、及びムスカリン受容体に対する自己抗体が検出されることが報告され、リツキシマブの治療効果やPOTS(体位性頻脈症候群)やCRPS(複合性局所疼痛症候群)との関連が推測されています。ME/CFSにおけるナチュラルキラー細胞の機能異常については多くの研究があります。また、ME/CFSにおいて腸内細菌叢異常の存在が注目されており、抗炎症性菌種の減少により腸管炎症が持続し、制御性T細胞の異常などが生じる可能性が考えられます。

前述したノルウェーのFlugeらによるリツキシマブの治験は、152例のME/CFS患者を対象とする多施設共同研究が実施されて、半年以内に結果が公表される模様です。リツキシマブの効果の発現には、数ヶ月以上の時間が必要であり、これはB細胞から分化する抗体産生細胞の枯渇に要する時間に対応する可能性があります。ME/CFSの治療薬として開発されてきた薬剤として、二本鎖RNA医薬でありToll様受容体3のアゴニストであるアンプリジェンは重要な位置を占めますが、米国では承認に至っておらず、今後の開発については先が読めない状態が続いています。

神経免疫疾患は、その免疫異常や炎症をコントロールすることで制御が可能な疾患群として理解され、そのこと自体はME/CFSが将来的には治る疾患になることすら意味します。ME/CFSを慢性ウイルス感染と関連づける考え方もあり、その可能性はME/CFS神経免疫疾患仮説と矛盾するものではありません。疾患研究は患者を診療するところから始まるべきであり、ME/CFSの診療を行う医療機関が増えることが必要です。そのために何ができるのか考えるだけではなく実行すべきときが来ているのではないでしょうか。

 

広告