18.7.30国際学会のガイドライン(案)への見解の訳

「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班が昨年発表した「日本における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)治療ガイドライン」案に対して、7月25日に国際ME/CFS学会から最終見解を送って頂きました。全文を翻訳致しましたのでご紹介致します。
・・・・・・・・・・・・・・

「日本における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)治療法ガイドライン」案に対する当学会の見解をという貴団体の求めに応じて、この手紙を作成しました。特に政策立案者、政府官僚、医学研究者、医療従事者の方々はME/CFSの様々な症状や複雑な特徴をよくご存じないことがしばしばですので、国際ME/CFS学会では、この文書によって日本のME/CFS患者に危害が及ぶ可能性を懸念しております

当学会の「臨床医のためのME/CFSの手引き2014年版」①に言及されているように、ME/CFSは神経系、免疫系、内分泌系、自律神経系、エネルギー代謝、その他の生理学的異常を伴う、深刻で複雑な身体疾患です。これらの異常は、米国医学研究所によって2015年に発表された9000以上の研究論文のレビュー②にも示されています。これは精神疾患でも心因性疾患でもありません。世界保健機関は現在、筋痛性脳脊髄炎を神経系疾患(G93.3)と分類しています①。

「日本におけるME/CFS治療法ガイドライン」案において、段階的運動療法(GET)をME/CFSの治療法として推奨していることを、当学会では懸念しています。GETに関する様々な研究は、過度に広い範囲の患者を組み入れてしまう診断基準、客観的評価尺度の不足、治験参加者を惑わすような情報提供の疑い、参加者の治験からの脱落率の高さ、治験開始後に変更された評価基準、評価が選択的に一部のみ報告された、有害事象についての報告不足などを含む多数の欠陥により批判を受けています。

2016年に米国医療研究品質庁(AHRQ)は、GETに対するエビデンスは「不十分である」と評価を下し、多くのGETの研究に使用されている、基準の緩い「オックスフォード」診断基準は非特異的であるために使用すべきでないと勧告しています③。当学会ではGETの治験の成果には懐疑的です。米国のCDC(疾病管理予防センター)も2017年秋に同様の結論に達し、現在GET をME/CFSの推奨する治療法から削除する作業を進めています⑤。

ME/CFS患者を数十年にわたって臨床的に診てきた当学会のメンバーは、GETは有効ではないと話しており、当学会ではGETを推奨しません。何千人もの患者を対象に、数か国にわたり数年かけて様々な研究グループによって行われた調査でも、GETが実質的に有効であったとする人はほとんどいないことがわかっています。むしろ、平均して約半数の解答者は、GETによって健康が悪化したと発表しています。従って、日本のME/CFS治療ガイドラインの最終版の中でGETが推奨されないことを願います。

今回の日本のME/CFS治療ガイドライン案は、認知行動療法、ヨガのような行動療法アプローチや、さらにME/CFSの包括的治療法として抗うつ薬のような薬物治療で構成されているために、この文書によって医療従事者の間でME/CFSはそのような介入によって治癒又は回復することができる精神的な疾患又は心因性疾患であるという間違った信念が強化されるのではないかという、貴団体の懸念を共有します。従って、下記のことをすることにより、この文書がこうしたいかなる誤解をも生じさせないようにすべきだと当学会は信じます:

a)ME/CFSは精神的な疾患でも心因性の疾患でもないことをはっきりと明らかにすること
b)こうした治療法は補助的にすぎず、最初に行う治療法でも、根治的又は疾患を緩和させる治療法でもなく、がんや心臓病などのような他の疾患に対するのと同様に扱うべきであることを伝えること(例えば、がん患者を認知行動療法やヨガだけで治療することはない)
c)このような治療法は全てのME/CFS患者に必須ではないことを強調すること(例えば、うつ病はME/CFSの症状ではなく、併存疾患としてうつ病がない患者に抗うつ剤を処方すべきではない)

我々のこの見解が、全ての人の益になる科学的で正確なガイドラインを作成するために文書をレビューしている貴患者団体、ガイドライン作成委員会、政府機関にとって役に立つことを願っています。
・・・・・・・・・・・・・・・

英語の全文はこちらからご覧頂けます。全文の翻訳はこちらからご覧頂けます