18.4ネイチャーダイジェストにME/CFSの記事

世界的に有名な科学誌NATUREの2018年1月4日号に、“The invisible disability”(見て見ぬふりをされてきた病)と題して、ME/CFSのことが取り上げられました。さらに4月になって、NATURE(ネイチャー)ダイジェスト「極度の疲労で起き上がれない病」と題して、6ページにわたって翻訳記事が掲載されましたのでご紹介致します。

「筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)の研究には苦難続きの過去がある。しかし、ここにきてようやく、研究の足掛かりが見つかりそうな気配だ」ME/CFS患者からの訴えは数十年前から続いていました。現在、数十件の予備的研究が進行中で、この分野に参入する研究者は、現代の強力な分子生物学ツールを駆使して、ME/CFSの関する全ての遺伝子やたんぱく質、細胞、感染病原体候補を探し出そうとしています。米国国立衛生研究所(NIH)は、ME/CFSの研究を強化するために、2017年に投入する資金を2016年の約600万ドル(約6億3000万円)から倍以上に当たる約1500万ドル(約16億円)へと増額しました。

2011年と2013年に英国のチームが「PACE」と呼ばれる大規模臨床試験で、大勢の患者の症状が運動療法や認知行動療法によって緩和したと報告しましたが、2015年頃から研究者や患者活動団体が、PACE試験には設計上の欠陥があるとして公然と批判し始めました。こうした状況を受けて、米英両国の保健当局は最近、自国のガイドラインを改定しています。米国CDCは、PACEの結果で有効とされた治療法を推奨することをやめました。2017年9月には、英国の国民医療サービス(NHS)も推奨を見直すことを発表しています。ME/CFS患者では運動後に数日も寝込んでしまいますし、中には慢性的な機能障害に苦しんだり、腸管に障害があったり、歩行能力が完全に失われた患者もいます。

スタンフォード大学医学系大学院の感染症専門家であるモントヤ先生は、ゲノミクスやプロテオミクス、メタボロミクスを使った高度な解析が役立つだろうと期待しています。ハーバード大学医学系大学院のアンソニー・コマロフ先生は、1980年代半ばに研究に取りかかりました。デポール大学の心理学研究者のレオナード・ジェイソン先生のチームは、シカゴ市内の約3万人に電話をかけて疫学調査を行いました。いろいろな意味でME/CFS患者は、未だに「見て見ぬふり」をされています。大半の患者は一度ならず医師から見放された経験があり、社会からも無視されていることが多く、米国では経済的に困窮したケースがよく見られます。ある疫学研究は、ME/CF患者の自殺率は一般集団の約7倍にもなると発表しています。

患者は女性の方が多く、内分泌系の変化が関係している可能性があると考えられますが、モントヤ先生は、免疫系に異常をきたすような感染症が発端になってME/CFSを発症するという仮説が有力だと考えています。この数年間に、ME/CFSの異常な免疫応答を暗示する研究結果がいくつか報告されています。直近では2017年に6月にモントヤ先生のチームが、重症患者でサイトカインという免疫系たんぱく質17種の数値に異常があることを明らかにしています。一つの可能性として、一部の自己免疫疾患と同様に、T細胞が侵入微生物ではなく自己のたんぱく質によって誤って活性化され、B細胞が自己反応性の抗体を分泌するという仕組みが考えられます。

この説の後押しになったのは、予想外の知見でした。2008年にノルウェーの大学病院で、B細胞の増殖を止める抗体医薬リツキシマブでリンパ腫の治療をしたところ、この薬のおかげでME/CFSの症状が軽減されたのです。そこで、がんではないME/CFS患者30人にプラセボ対照試験を行ったところ、リツキシマブがME/CFSの症状を改善することが分かりました。ジャクソン研究所ゲノム医学研究所の免疫学者Derya Unutmaz先生は、ME/CFSに見られる炎症は患者の免疫系の調整に問題があるためではないかと考えています。その調整とは、無害なウィルスやカビ胞子、もしくは他の悪さをしない刺激に対するT細胞応答の抑制です。

2000年代に患者活動家団体は、NIHがME/CFSに関して、生理学的経路を調べるよりも、精神医学研究や行動学研究の助成金申請を優遇していると批判しましたが、2015年になって大きな変化がありました。IOM(全米アカデミーズの医学研究所)は9000件以上の科学論文を再検討し、「この報告書の第一のメッセージは、ME/CFSは重篤で複雑な慢性の全身性疾患だということである」と述べました。NIH所長のフランシス・コリンズはその後すぐに、ME/CFSの発症機序を解明するために基礎研究を同研究所が支援すると発表しました。2017年9月、NIHは研究拠点を支援する新たな助成金の交付先を発表しました。一つはリサーチ・トライアングル研究所にある研究所に交付され、ここでME/CFSのデータが統合されます。

Unutmazにも5年間で1000万ドル(約10億5000万円)が交付され、患者の免疫系、代謝系、神経系の相互作用について調べています。その一環として、微生物学者との共同研究で患者の体内に棲む細菌を調べ、そうした細菌集団の変化が、炎症に影響しそうなグルコースなどの代謝産物をどう変化させるかを見る予定です。コロンビア大学やコーネル大学の研究チームも、Unutmaz先生と同様のテーマに取り組んだり、脳内の炎症を詳しく調べたりするための助成金をNIHから得ています。ME/CFSには、NIHの出資がまだ少なすぎると話す研究者もいます。

スタンフォード大学医学系大学院ゲノム研究センター所長のロナルド・デービス先生も、研究資金に苦労しており、米国内のHIV感染者数はME/CFS患者数とほぼ同じですが、NIHが2017年にHIV研究に投じた予算はME/CFSの200倍にもなると指摘します。Davis先生のチームは、重症患者20人の全ゲノムと共に、その家族のゲノムの解析を完了させ、この病気の遺伝的素因を探す予定です。もう一つのプロジェクトとして開発中の診断のための検査法は、2500個の電極を備えた小型デバイスを用い、血液に含まれる免疫細胞や血漿の電気抵抗を測るもので、患者から採取した血液試料をストレス因子である少量の食塩にさらすと、その血液は健康な成人試料ほど十分に回復しないことが分かりました。

デービス先生が研究を始めたのは2008年ですが、息子のウィットニー・ダフォーがME/CFSによって寝たきりになったのです。Dafoeは34歳ですが、もう話すこともできず、ペパータオルに穴を開けるなどのわずかな動作で、両親とコミュニケーションを取っています。「現在、息子は歩けず、音楽を聴くことも文字を書くこともできず、ベッドに一日中横たわっています。息子と同じような状態の患者は数千人もいますが、理不尽なひどいことを言われ、名誉を傷つけられています」と彼は語ります。

今後5年もあれば、患者の免疫系や代謝系、内分泌系、神経系に特異的な異常を突き止められるでしょうし、おそらくこの病気の遺伝的素因も見つけ出せるでしょう。これらの指標をもとに診断のための検査法が考案され、さらに治療への道も開けるかもしれません。

広告