慢性疲労症候群の専門研究を願う

~6月の日本疲労学会の抄録を読んで~

篠原三恵子(CFSをともに考える会)

6月25日から26日にかけて、大阪で日本疲労学会が開かれました。私は参加できませんでしたが、参加した友人が講演抄録を貸して下さったので早速読んでみました。以下は、その感想です。

まず、学会会長の挨拶が、この学会の現在の姿をよく表していると思います。「慢性的な疲労が認められた人々の半数近くは、自分の生活能力の低下を自覚しており、日常生活や社会生活に重大な支障をきたすCFSという病態に陥っている人も、0.3%認められています。」 これではまるで、“慢性疲労が悪化するとCFSになる”と云っているようなものです。私たちは、疲労はCFSの多くの症状の一つにしか過ぎず、慢性疲労とCFS(慢性疲労症候群)は、まったく別のものと考えています。

また、「2009年4月に …厚生労働省に、『自律神経異常をともない慢性的な疲労を訴える患者に対する、客観的な疲労評価方法の確立と診断指針の作成』研究班が誕生し …客観的な疲労バイオマーカーを確立し、平成23年度に慢性疲労診断指針を策定することをめざしています」とあります。ここでも私は、“CFSの症状の一つにすぎない疲労を客観的に示すバイオマーカーではなく、CFSの根本原因が何であるのかを研究してほしい”と、強く感じました。

抄録の「慢性疲労研究のこれまでの歩み」のところでは、1990年頃、エイズと同様にCFSも、血液製剤を介して蔓延している可能性がマスコミで大きく取り上げられ、旧厚生省にCFSの研究班が発足したとあり、1996年まではCFSが研究されていましたが、その後研究が疲労に移っていく流れが書かれています。「当初CFSの病因として心配されたレトロウイルスなどの感染症はほぼ否定されたことにより厚生労働省エイズ・結核感染症課で行われていた慢性疲労に関する研究班は2000年で終了し」とあります。しかし、これも大きな疑問です。それではなぜ、いまだにアメリカ等ではウイルスの研究が盛んに行われているのでしょうか。

興味深い報告もありました。「DNAチップによるCFSの診断法の開発」という講演では、DNAチップによる臨床検査の応用として、客観的診断の困難な中枢性疾患を、血液の遺伝子発現プロファイルから診断する方法の構築を進めているそうです。CFS患者と健常人を判別できるパラメーターとして、エネルギー産生能、ウイルス感染、細胞死、酸化ストレス、T細胞受容体、鉄調節、NK細胞受容体、ミトコンドリアDNA合成等があげられています。

CFSの客観的診断に、酸化ストレス度の評価が有用である可能性も報告されています。また、中枢神経系において免疫を司るミクログリアは、サイトカイン産生細胞としての役割を担っていますが、CFSにおける疲労感や思考力低下、集中力低下などの中枢神経症状からは、脳内における免疫異常の関与が予想されるそうで、この分野における研究も続けるとのことです。

小児CFS患児における注意配分機能低下は、左右両側の下前頭回の過剰賦活と関係することが示唆されたという報告や、小児CFS患児の背外前頭前野の機能障害は、治療により可逆的な機能回復も期待できるという報告もあります。

CFSの研究といっても、疲労や免疫異常などの症状についての研究ばかりであり、その誘因がストレスであるという仮説が正しいかどうかを、どうして検証しないのでしょうか。それではCFSの治療には結びつかないであろうと、私は感じました。私たちが普及しているアメリカのドキュメンタリー「アイ・リメンバー・ミー」のキム・スナイダー監督は、今年5月の私たちのインタビューに答えて、「人生においてストレスが多ければ、病気にかかりやすくなりますが、CFSがストレスに関連した病気であると考えることは、間違いだと思います。」と明快に答えました。同感です。

この疲労学会に出席した友人は、「学会の発表の八割は疲労についてで、二割がCFSだった」と語りました。抄録を読む限り、現在の疲労学会におけるCFSについての研究は、疲労やストレスの延長線上でしか研究されていないようです。学会名称どおり、研究主体が疲労に代わってしまったのでしょう。疲労を研究することは意味あることだと思いますが、私たちCFSの患者から見れば、なにか置き去りにされたような印象を強く感じます。

私たちの会員の中にも、ほぼ終日横になって休んでいなければならない患者さんが何人かいます。これまで、日本における重症患者の実態が調査されたことがありません。ぜひ調べていただき、その実態に基づいて原因や治療方法を研究してほしいものです。厚生労働省などによる専門的な研究チームをもう一度立ち上げてほしいと、この抄録を読みながら痛切に感じました。

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